口の中でとろけるような「サシ」こそが最高級。そんな黒毛和牛の常識を覆す、驚きの挑戦が宮崎県延岡市で始まっています。標高645メートルの山頂に位置する鏡山牧場では、広大な牧草地を黒毛和牛がのびのびと駆け回っているのです。
2019年12月02日現在、ここでは全国的にも極めて珍しい「放牧」による肥育が行われています。太陽の下で新鮮な草を食べ、ストレスなく育った牛たちは、余分な脂肪が落ちて体が引き締まります。その結果、赤身に肉本来の濃厚な旨味が凝縮されるのです。
SNS上では「脂っこい肉が苦手になってきたから、こういう赤身を待っていた」「牛が幸せそうに歩いている姿を見ると、大切にいただこうという気持ちになる」といった、共感の声が広がっています。健康志向や食の背景を重視する層に、この新しい価値観が深く刺さっているようです。
素人からの挑戦が生んだ「牛らしさ」へのこだわり
鏡山牧場を運営する八崎秀則さんは、実は2016年に新規就農するまで畜産とは無縁の生活を送っていました。農業用資材の会社を経営していた彼が、鏡山の美しい景観に心を奪われたことがすべての始まりです。
八崎さんは、牛舎に閉じ込めて太らせる一般的な飼育方法に疑問を抱いていました。牛が本来の姿で生きることを重視し、あえて手間のかかる放牧を選択したのです。これにより、牛の表情は穏やかになり、性格も驚くほど落ち着くといいます。
ここで注目したいのが「アニマルウェルフェア」という考え方です。これは「動物の福祉」と訳され、家畜が飢えや痛み、ストレスから解放されて健康的に生活できるように配慮する飼育指針を指します。八崎さんの取り組みは、まさにこの国際的な潮流の最先端を行くものです。
経産牛の価値を再定義し、食卓へ物語を届ける
鏡山牧場が出荷するのは、子牛を産む役割を終えた「経産牛」のみです。一般的には肉質が硬くなると敬遠されがちですが、放牧によって熟成されたその味わいは、都内の有名レストランや百貨店のバイヤーからも熱い視線を浴びています。
2019年5月からは待望のネット通販も開始されました。さらに6月からは加工品の販売もスタートし、その価格は高級な霜降り肉に匹敵します。これは、消費者が単なる「部位」ではなく、牛が育つまでの物語や理念にお金を払っている証拠といえるでしょう。
誰にでも好まれる優等生な肉ではないかもしれません。しかし、本物の味を知る人々に届けたいという八崎さんの情熱は、日本の畜産業に新たな光を当てています。牛と人が共に幸せになれる牧場の姿は、次世代の農家にとっても大きな希望となるはずです。
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