私たちの家庭で電気の使用量を刻々と刻む電力計が、今、劇的な進化を遂げているのをご存知でしょうか。次世代電力計「スマートメーター」への切り替え需要が追い風となり、国内トップクラスのシェアを誇る大崎電気工業は目覚ましい成長を遂げています。しかし、同社の渡辺光康社長は、現在の成功に安住することなく、常に「攻め」の姿勢を崩しません。
渡辺社長が掲げるのは、電力計の枠を超えた付加価値の創造です。本社1階に共同ワーキングスペースを設け、スタートアップ企業や自治体との連携を加速させています。例えば、メーター技術を応用した高齢者の健康管理サービスなど、異業種とのタッグによる革新的な事業が次々と芽吹いています。これは、縮小傾向にある国内市場に対する強い危機感の表れでもあるのです。
買収の窮地を救った「ホワイトナイト」としての覚悟
大崎電気工業がグローバル企業へと脱皮する転機となったのは、2012年に実施したシンガポールEDMI社の買収でした。当時、副社長として交渉の最前線に立った渡辺社長は、敵対的TOB(株式公開買い付け)を仕掛けられていた同社の「ホワイトナイト」として名乗りを上げました。ホワイトナイトとは、買収対象となった企業を救うために友好的に買収を行う「白馬の騎士」を指します。
交渉の最終局面、相手側から買収額の吊り上げを要求され、10億円単位の決断を迫られる場面がありました。渡辺社長が一度は諦めかけたその時、相手から握手が差し出されたのです。決め手となったのは、相手の経営陣や理念をそのまま尊重するという、渡辺社長が示した深い「信頼」と「誠実さ」でした。このM&Aにより、海外売上比率は3%から3割へと飛躍的に拡大しました。
15分の花見が生んだ驚異の生産性
渡辺社長の経営哲学の根底には、常に「人との繋がり」があります。1987年に埼玉工場の工場長に就任した際、彼は従業員との一体感を何より大切にしました。象徴的なのは、昼休みの花見を15分延長したエピソードです。「損失は自分の給料から引いていい」とまで言い切った彼の粋な計らいに、従業員は心から感動し、結果としてわずか1カ月でその損失を上回る増産を実現しました。
ネット上でも「こんな上司の下で働きたい」「信頼が数字を作る好例」と称賛の声が上がるこのエピソードは、単なる精神論ではなく、現場の士気が品質に直結する製造業の本質を突いています。父から授かった「現場で働く人への感謝」という教えは、今も同社の高品質なモノづくりを支える背骨となっています。
技術者としての顔も持つ渡辺社長は、休日にはホームシアターでSF映画を楽しみ、オーディオの配線に没頭する一面もあります。そんな彼が描く未来図は、メーターというインフラを通じて人々の生活をより豊かにすることです。2019年12月03日、大崎電気工業は確かな信頼を武器に、新たな社会のインフラを構築しようとしています。
コメント