体長わずか1ミリほどの小さな生物「線虫」が、将来的に人類の健康を守る救世主になるかもしれません。現在、がん検査の革新に挑むHIROTSUバイオサイエンスの代表、広津崇亮氏の歩みを紐解くと、その転機は2005年04月01日に訪れた九州大学への移籍にありました。
当時、京都大学で研究に没頭していた広津氏のもとへ、九州大学から「無任期」という異例の好条件で助教として招くオファーが届いたのです。自身の研究テーマを継続できるという恩師の力強い後押しもあり、広津氏は新天地での挑戦を決意したといいます。
日本の学術界では、所属先が変わる際に自身の研究テーマを維持し続けることは決して容易ではありません。しかし、東京大学から京都大学、そして九州大学へと歩みを進める中で、広津氏は一貫して線虫というパートナーと共に研究を深める幸運に恵まれました。
当時の線虫研究における嗅覚の分野では、アメリカのロックフェラー大学に在籍するコーネリア・バーグマン教授が、ノーベル賞候補として世界を牽引していました。彼女は線虫が匂いを感知し、神経が活性化するまでの情報伝達の仕組みを解明する「王道」を突き進んでいました。
先行するライバルと同じ土俵で戦うのではなく、独自の視点を持つことの重要性を広津氏は理解していました。そこで彼が着目したのが、匂いに対する「嗜好性」、つまり好き嫌いの感情がどのようにして脳内で生まれるのかというメカニズムの探究だったのです。
人間や哺乳類の複雑な脳構造に比べ、線虫は神経回路が極めてシンプルで、そのすべてが特定されています。広津氏は、線虫が経験によって匂いの好みを変化させる事実を発見しました。お腹の状態によって食べ物の匂いの感じ方が変わるような現象が、線虫にも備わっていたのです。
さらに興味深いのは、匂いの濃度によって反応が逆転する研究です。例えば「インドール」という物質は、濃度が濃いと不快な臭いに感じられますが、1万分の1まで希釈するとジャスミンのような芳香に変わります。この感覚の不思議を、線虫の行動から突き止めようとしました。
SNS上では、この線虫によるがん検査技術に対し「痛くない検査は画期的」「わずかな匂いの差を嗅ぎ分ける能力が凄い」といった、医療の簡便化を期待する声が数多く寄せられています。最先端の研究が、私たちの生活に身近な恩恵をもたらす日はそう遠くないでしょう。
私自身の見解を述べますと、既存の権威と同じ道を歩まずに、あえて「嗜好性」という隙間を狙った広津氏の戦略眼こそが、現在の事業成功の鍵だったと感じます。科学的な真理の追求が、実社会での課題解決に直結していくプロセスには、大きなロマンを感じざるを得ません。
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