日本生まれのハンバーガーチェーンとして愛され続けるモスバーガーが、大いなる変革の時を迎えています。2018年に発生した食中毒問題による深刻な客離れを乗り越え、足元の業績は力強い回復基調へとシフトしました。運営会社であるモスフードサービスの中村栄輔社長は、この復活劇の背景に徹底した組織改革があったことを明かしています。2019年4月に敢行したマーケティング部門と商品開発部門の統合が功を奏し、顧客のニーズを捉えた的確な販売促進活動が次々とヒットを生み出しました。
この戦略的なアプローチによって、ブランドの核となる30代から40代のファミリー層が再び店舗へと足を運ぶようになっています。ネット上でも「最近のモスの限定メニューは攻めていて魅力的」「やっぱり安心感がある」といったポジティブな声が目立つようになりました。2019年10月の消費税増税による買い控えの影響も最小限に留まっており、ブランドへの信頼が確実に再構築されていることが伺えます。ただし、持ち帰りや宅配サービスへの需要が急速に高まるなど、市場の変化にも注目が集まっています。
デリバリーサービスのウーバーイーツといった、注文から配達までをオンラインで完結させるフードデリバリー市場の拡大は、店舗の在り方を大きく変えつつあります。こうした顧客の購買行動の変化に合わせ、モスバーガーは東京都内を中心に最先端のデジタル技術を導入した実証実験を開始しました。一部の店舗では、決済のみを顧客が行うセミセルフレジの導入が約70店規模で進んでおり、さらなる省力化を目指した完全セルフレジの検証も活発に行われています。
いわゆるDX(デジタルトランスフォーメーション)を進める中村社長ですが、ただ効率化を追い求めているわけではありません。店員が一つひとつ丁寧に調理する「手作りの温かみ」こそがモスのアイデンティティであり、絶対に守るべき一線であると強く主張されています。深刻化する人手不足を乗り切るためには、機械に任せるべき業務と、人間の手で行うべき付加価値の高い作業を明確に切り分けることが不可欠なのでしょう。テクノロジーと職人技の融合こそが、これからの外食産業の生存戦略と言えます。
同社は今後、カフェ型の新業態など、従来のハンバーガーショップの枠に捉われない多様な店舗スタイルを立地特性に応じて展開していく方針を掲げています。この新たなグランドデザインは2020年3月を目途に具体化される予定であり、ファンからも高い関心が寄せられています。さらに、国内市場に留まらず、旺盛な成長エネルギーを秘めたアジア地域への進出にも並々ならぬ熱意を注いでいます。
若きアジアの熱気を取り込むグローバル戦略
モスの未来を占う上で外せないのが、2019年に相次いで発表された海外の有力パートナーとの戦略的提携です。特に人口の平均年齢が若く、経済成長が著しいフィリピンやベトナムは、極めて有望な巨大市場として位置づけられています。ベトナムでは現地の教育機関と提携し、将来の幹部候補や店舗を支える優秀な人材の育成にも乗り出しました。これは単なる市場開拓ではなく、労働力不足に悩む日本の飲食業界において、優秀な国際的人材を確保するための布石でもあります。
「人材」と「市場」の両面においてアジアとの結びつきを強めることで、モスを日本発のグローバルブランドへと昇華させるという中村社長のビジョンは非常に明快です。高度経済成長期に構築された、全国どこでも「一律のサービス」を大量提供する従来のチェーンストア理論は、もはや現代の多様化した社会では通用しなくなっています。顧客一人ひとりの好みに合わせるカスタマイズ対応や、地域密着型の店舗運営がこれからのスタンダードになるでしょう。
本部の都合を加盟店に押し付けるのではなく、現場であるフランチャイズ(FC)店舗の活力をいかに引き出せるかが、本部側の最大の変革テーマとなっています。SNS上では「ベトナムのモスで日本の味がどう評価されるか楽しみ」「個性を重視する姿勢を応援したい」といった期待のメッセージが飛び交っています。伝統の美味しさを守りながら、時代の変化に俊敏に適応しようとする同社の挑戦は、日本の外食産業全体に新しい風を吹き込むに違いありません。
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