近年、ビジネスの現場で「タレントマネジメント」という言葉を耳にする機会が増えています。これは従業員が持つ独自の才能やスキルを最大限に引き出し、最適な部署へ配置したり育成したりする戦略的な人材管理手法のことです。労働人口の減少が進む現代において、企業が競争力を維持するための切り札として大きな注目を集めています。SNS上でも「これからの人事には必須のスキル」「個人の能力を活かす仕組みづくりが求められている」といった前向きな意見が多く寄せられており、関心の高さが伺えます。
パーソル総合研究所が2019年6月に人事部門の課長職以上を対象に実施した「タレントマネジメント実態調査」によると、驚くべき結果が明らかになりました。なんと半数以上の担当者が、その定義について「相応の知識がある」と回答したのです。「聞いたことはあるが曖昧である」という層を含めると、全体の認知度は79.7%と約8割に達しています。この数字は、組織への愛着を示す「エンゲージメント」の79.3%や、多様性を認めて活かす「ダイバーシティ&インクルージョン」の79.9%と同水準の高さです。
しかし、ここで一つの疑問が浮かび上がります。これほど認知度が高い一方で、実は明確な定義が定まっていないのが現状なのです。例えば米国人材マネジメント協会による「戦略的人事マネジメント(SHRM)」の定義では、事業のニーズに合わせて採用や育成を統合的に進めることとされています。ここでは経営上の重要ポジションを見据え、将来のリーダー候補生を囲い込む「タレントプール」の形成が強調されています。これは財務情報だけでなく、組織の学習や業務プロセスといった多角的な視点で企業を評価する「バランススコアカード」の発想に近いものです。
さらに、全米人材開発協会(ATD)の定義を見ると、組織開発や後継者計画など8つの要素を有機的に結びつけ、短期および長期の成果を生み出すものとされています。こうした海外の専門機関が掲げる高度な定義を並べられると、正直なところ「少し難解で分かりづらい」と感じてしまう方が多いのではないでしょうか。それにもかかわらず、日本の人事担当者の多くが「理解している」と答えている背景には、少々危うい現状が隠されているように思えてなりません。
私は、多くの企業が「各社各様」あるいは「担当者ごと」の独自の解釈でこの言葉を使っているのではないかと考えています。タレントマネジメントという言葉が独り歩きし、社内で認識のズレが生じたままシステムを導入しても、決して上手く機能することはないでしょう。重要なのは、流行りの言葉に飛びつくことではありません。まずは自社が抱える経営課題を直視し、自社におけるタレントマネジメントの定義を明確に定めることが成功への第一歩です。
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