化学やセメントの大手として知られる宇部興産が、現在厳しい市場環境に直面しています。自動車などの樹脂に欠かせないカプロラクタムの価格が下落した影響により、2019年度の連結純利益は前年度から15%減少の275億円となる見通しです。SNS上では「製造業全体の冷え込みが心配」という声のほか、「ここからの巻き返しに期待したい」といったエールも多く寄せられています。この試練を乗り越えるため、同社を率いる泉原雅人社長が描く2020年の反転攻勢へのビジョンに注目が集まっています。
主力のカプロラクタム市場について、泉原社長は2020年中に緩やかな回復を見せると予測しています。同社は単に原料を販売するだけでなく、自社でナイロン製品まで一貫生産する強みを持っており、すでに2018年にはスペインの工場を増強しました。原料の約7割を自社消費に回すことで、市場の価格変動に左右されにくいタフな経営体質へのシフトを着実に進めています。素材の汎用化が進む中、バリューチェーンを自社でコントロールする戦略は、非常に合理的でスピード感がある決断だと感じます。
高精細ディスプレイや有機ELを支える機能性樹脂の躍進
苦戦する汎用素材とは対照的に、付加価値の高い機能性樹脂の分野は非常に好調な波に乗っています。特に4Kや8Kといった高精細ディスプレイの回路基板に採用される「ポリイミド」は、市場での需要が安定しています。ポリイミドとは、極めて高い耐熱性と電気絶縁性を合わせ持つスーパーエンジニアリングプラスチックのことです。さらに、次世代の映像技術として注目される有機ELディスプレイ向けの樹脂材料(ワニス)も、中国や韓国からの注文が引きも切らない状態を維持しています。
一方で、2020年の夏に控える東京五輪・パラリンピックの閉幕後における、セメント需要の減少を懸念する声も囁かれています。しかし、泉原社長の見立ては決して悲観的ではありません。これまで延期されていた地方の公共事業が再び動き出すほか、相次ぐ自然災害を受けた国土強靭化への意識が国民の間で高まっているからです。インフラ整備の重要性が再認識されている現在、オリンピックが終わったからといって極端に需要が落ち込む可能性は低いと見て良いでしょう。
電気自動車(EV)シフトを見据えた積極投資の全貌
同社が最も情熱を注いでいるのが、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)の普及に伴って市場急拡大が見込まれる車載用部材です。リチウムイオン電池のショートを防ぐために極めて重要な役割を果たす「セパレーター(絶縁体)」の増設工事が、2020年の夏に堺工場で完了する予定です。さらに、自動車の内装を上質に仕上げる高級レザーなどの原料となる「ポリカーボネートジオール(PCD)」の生産能力も、タイの拠点を拡張して現在の2倍となる年産8000トンへと引き上げます。
市場の荒波を乗り越えるためには、従来の汎用素材に頼るビジネスモデルから脱却し、成長分野への選択と集中を急ぐ構造改革が欠かせません。競合ひしめく厳しい状況下ですが、国内セメント工場に廃熱発電設備を導入するなど、地道なコスト削減策も始まっています。今後はこうした効率化を進めつつ、環境変化に即応したダイナミックな生産体制の再編に踏み込めるかが、中長期的な成長を決定づける鍵になるはずです。攻めの投資を続ける同社の挑戦から、目が離せません。
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