ワインのお供や日々の料理に欠かせないチーズですが、いま身近な食卓に影響を与えかねない事態が起きています。日本が輸入するチーズの主戦場であるオセアニア産製品の取引価格が、上昇を続けているのです。2020年1月から6月における取引価格は、前の期と比べて約1%の引き上げで合意に達しました。値上がりはこれで2期連続となっており、1年間で見ると約6%も高騰している計算になります。大好きな味が手軽に楽しめなくなるかもしれないと、不安が広がっています。
今回の値上げを主導した背景には、オーストラリアを襲った深刻な気候変動があります。現地では雨が降らない日々が続き、広大な大地が干ばつに見舞われました。牛たちの主食となる牧草が育たなくなり、さらに貴重な飲用水の価格も跳ね上がっています。酪農家の方々は経営コストの急増に耐えかねて、飼育する乳牛の数を減らす苦渋の決断を下しました。その結果、チーズの原材料となる「生乳(せいにゅう)」の生産量が著しく落ち込んでいるのです。
生乳とは、牛や羊から搾ったままの加工していない新鮮なミルクのことで、すべての乳製品の源となるものです。農畜産業振興機構の調査によると、オーストラリアにおける2019年10月の生乳生産量は96万1100キロリットルにとどまり、前年の同じ月と比べて5.5%も減少しました。なんと17ヶ月連続で前年の実績を割り込むという、極めて深刻な事態に直面しています。隣国のニュージーランドも天候の影響は比較的少ないものの、先行きは不透明です。
一方で、世界の市場ではチーズを求める声がかつてないほど高まっています。中国をはじめとするアジア諸国では、食生活の欧米化が急速に進展しました。その影響で、主要国におけるチーズの消費量は5年連続で右肩上がりを記録しており、5年前と比較して1割以上も拡大しています。供給が細る中で需要が爆発的に増えるという、まさに需給が逼迫(ひっぱく:余裕がなくなること)した状態に陥っており、今後も価格が上昇する可能性は極めて高いでしょう。
こうしたニュースに対し、SNS上では「せっかく関税が下がったのに意味がない」「ピザやパスタの値上げに繋がったら悲しい」といった悲痛な声が相次いでいます。政府が交わした環太平洋経済連携協定(TPP)の効果により、輸入チーズにかかる税金は段階的に引き下げられている最中でした。そのため「これからは安く買える」と期待していた消費者が多かったのですが、皮肉にも今回の原材料高騰がその恩恵を完全に打ち消してしまった形です。
このピンチに対し、国内の食品メーカーは懸命な防衛策を模索しています。プロセスチーズに使う「チェダー」や、ピザにかかせない「ゴーダ」が1トンあたり4550ドル前後まで値上がりしたことを受け、企業からは「他の産地のチーズをブレンドして価格を維持したい」という本音も漏れてきます。企業努力によるコスト吸収も限界に近づいており、このまま高騰が続けば、私たちがお店で目にする商品の価格に上乗せされる日も近いかもしれません。
食卓の定番であるチーズの値上げは、家計に大きなダメージを与えるため見過ごせない問題です。関税引き下げという明るいニュースがあっただけに、環境問題による大打撃は非常に悔やまれます。今後は価格を据え置くための企業の工夫を応援するとともに、産地に頼りすぎない柔軟な消費の視点も必要になるのではないでしょうか。自然の恵みへの感謝を忘れず、この危機を乗り越える知恵を業界全体で絞ってほしいと切に願います。
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