世界中の投資家が注目する企業の評価基準に、いま劇的な変化が起きています。これまでは財務業績が中心だった市場において、環境への配慮や社会的責任を重視する「ESG投資」が大きなトレンドとなっているのです。これは、環境(Environment)・社会(Society)・企業統治(Governance)の頭文字を取った言葉で、現代の企業評価には欠かせない重要な指標となっています。2020年01月22日の米国市場では、電気自動車メーカーの米テスラが躍進を遂げました。
テスラの時価総額は1000億ドル(約11兆円)の大台を突破し、ドイツのフォルクスワーゲンを追い抜いて自動車業界で世界第2位の規模に浮上したのです。年初からの株価上昇率は36%に達しており、市場の熱狂ぶりがうかがえます。SNSでも「時代の転換点を目の当たりにしている」「クリーンエネルギーへの期待感が株価に直結している」といった驚きの声が相次いでおり、環境対策をリードする企業への期待値は高まる一方だと言えるでしょう。
スイスで開催されているダボス会議でも、地球温暖化をはじめとする気候変動は最重要テーマとして議論されています。専門家からも、市場における投資の主要な関心事として環境問題が熱を帯びているという指摘がなされている状況です。一方で、2020年01月23日の東京株式市場では、明暗が分かれる結果となりました。ドイツでのディーゼル車を巡る排ガス不正疑惑が報じられた三菱自動車の株価が、上場来安値に迫る水準まで続落したのです。
こうした動きの背景には、急速に厳格化する環境規制が存在しています。とりわけ自動車業界にとって大きな壁となっているのが、欧州連合(EU)が2021年を期限に課している二酸化炭素の排出量削減ルールです。この規制では、走行1キロメートルあたりの排出量を2015年比で3割近くも減らすことが求められています。仮にこの達成基準をクリアできない場合、企業には巨額の罰金が科されるため、開発コストの増大が将来の業績を直撃しかねません。
現状で規制基準を大きく上回っているマツダは株価が低迷しており、環境を重視する海外の政府系年金基金からも保有株を減らされ続けているのが現状です。対照的に、基準値との差が小さく技術力で先行するトヨタ自動車は、業績の堅調さに加えて規制クリアへの安心感から株価が2割も上昇しました。こうした環境への対応力という新しい評価軸が、企業の資金調達力を左右する時代が本格的に到来していると私は強く実感しています。
世界的な機関投資家の間では、環境負荷の高い化石燃料に関連する企業から資金を引き揚げる「ダイベストメント(投資撤退)」という動きが猛烈な勢いで広がっています。撤退の対象となる潜在的な金額は12兆ドルを超え、過去数年で80倍以上に急増しました。これは一過性のブームではなく、環境リスクを放置する企業には未来がないという投資家たちの強い意志の表れです。対応の遅れは、市場からの退場を意味する厳しい時代に突入したと言えます。
しかし、この環境変化は優れたエコ技術を持つ企業にとっては、かつてない強烈な追い風に他なりません。例えば、自動車の排ガス測定装置で世界的なシェアを誇る堀場製作所は、規制強化に伴う需要拡大を見越して株価が6割も上昇しています。また、環境規制の波は自動車業界にとどまらず、2020年01月から燃料の成分規制が始まった海運業界など、あらゆる分野へ波及しており、サプライチェーン全体に大きな影響を与えているのです。
世界規模での環境規制は、短期的な船舶の需給逼迫を招いて海運株を急騰させるなど、市場を大きく揺さぶる強力な要因となっています。企業の持続可能性を見極めるため、投資家はこれまで以上に気候変動への対策をシビアに注視していく局面を迎えていることは間違いありません。今後の株式市場で生き残る企業を見極めるためには、私たちもESGというレンズを通して企業の技術力と未来への投資姿勢を注意深く見守っていく必要があるでしょう。
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