海外進出を果たす日本企業にとって、現地の厳しい税制や手続きの壁は常に頭を悩ませる問題でしょう。2020年1月21日、ベトナムの税関職員に対して現金、いわゆる賄賂(わいろ)を渡したとして、日本の電線加工品販売会社の元社長である48歳の男性が、不正競争防止法違反の罪で罰金の略式命令を受けました。企業の存続を揺るがしかねない行政処分を前に、魔が差してしまった舞台裏が捜査関係者への取材によって徐々に明らかになっています。
事件の当事者となったのは、愛知県名古屋市東区に拠点を置く「タイセイ」がベトナムに設立した現地法人です。この会社は関税を少なく申告していたとして、現地当局から巨額の追徴課税(本来支払うべき税金に加えてペナルティとして徴収される税)や罰金を科されることになりました。それだけでなく、企業としての信頼度を著しく失墜させる「格付けの引き下げ処分」までも同時に通知されてしまったのです。
企業の死活問題となる「格付け」の重要性
多くの人にとって、海外の税関による企業の格付けシステムはあまり馴染みがないかもしれません。ベトナムの制度では、税関が企業の信用度を厳格に評価しており、優良企業と認められれば輸入時の手続きが書類審査のみで通過できるという大きなメリットを享受できます。しかし、ひとたび評価が下がると、原材料を輸入するたびに社員が立ち会って現物を確認しなければならず、手続きが非常に煩雑になってしまう仕組みです。
こちらの現地法人が2014年4月に突きつけられた処分は、日本円にして約5000万円相当という莫大な追徴課税と罰金でした。さらに信用格下げによって、今後の部材調達のスピードが大幅に遅れるリスクが生じたのです。元社長はこうした危機的状況を前にして、「税関の信用度が下がれば、これからの生産体制を維持できなくなるかもしれない」と強い焦燥感を抱き、格下げを何としてでも回避したかったと供述しています。
裏口調達の代償とSNSで渦巻く厳しい声
追い詰められた元社長は、税関職員2人に対して約735万円相当の現金を裏で手渡すという暴挙に出ました。その結果、約5000万円だったペナルティは、信じられないことに約400万円へと激減し、恐れていた信用格下げの行政処分も綺麗に取り下げられたのです。「処分が重すぎたため、お金を渡して減免してもらおうと考えた」と本人が認める通り、まさに金で解決を図る歪んだ海外ビジネスの実態が浮き彫りとなりました。
このニュースに対し、SNS上では「新興国でのビジネスでは、こうしたグレーな交渉が常態化しているのではないか」と驚く声が上がっています。その一方で、「日本の恥さらしだ」「ルールを守って実直に進出している他の中小企業に大迷惑がかかる」といった、コンプライアンス(法令遵守)の意識の低さを厳しく糾弾する意見が多数を占めていました。安易な不正は、企業の社会的信用を完全に失墜させるブーメランとなります。
編集部が見るグローバルビジネスの教訓
今回の事件は、愛知県警による書類送検を経て、名古屋区検が2020年1月20日に略式起訴を行いました。同日中に名古屋簡易裁判所から罰金100万円の略式命令が下され、男性はすでに全額を納付したと伝えられています。現地の役人への賄賂によって一時的に処分を免れたとしても、最終的には日本の法律によって裁かれ、自らのキャリアと会社のブランドに泥を塗る結果となってしまいました。
海外進出における関税トラブルは珍しくありませんが、現地当局の処分が不当に厳しいと感じたならば、正規の法的手続きや外交ルートを通じて異議を申し立てるべきでしょう。目先の利益や手続きの効率化を優先し、賄賂という「悪魔の誘惑」に手を染めてしまえば、待っているのは破滅です。コンプライアンスの徹底こそが、グローバル社会を生き抜く日本企業にとって最大の盾であることを、私たちは決して忘れてはなりません。
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