アフガニスタンで人道支援に尽力し、志半ばで凶弾に倒れたNGO「ペシャワール会」の現地代表、中村哲医師の功績を国際社会へ発信する素晴らしい取り組みが動き出しました。政府は中村さんの気高い生き様を伝えるため、彼の自伝を英語に翻訳し、アメリカをはじめとする55カ国以上の大学図書館や研究機関へ寄贈する準備を進めています。この取り組みに対してSNS上では、「彼の残した平和への種火が、世界中で大きな希望に育ってほしい」といった感動の声が数多く寄せられている状況です。
今回、英訳の対象に選ばれたのは、2013年に出版された名著「天、共に在り」(NHK出版)です。この書籍は福岡県で生を受けた中村さんが、自身の生い立ちから、過酷なアフガニスタンの地で続けた医療支援、さらには人々の命を救うための井戸掘りや用水路建設といった、水源確保に奔走した足跡を克明に綴った作品となっています。単なる医師の枠を超え、砂漠を緑に変えたその不屈の歩みは、今なお多くの人々の胸を打ち続けて止みません。
本事業は、内閣府が日本の優れた文化や知見を海外に届ける目的で推進している書籍翻訳出版事業「JAPAN LIBRARY」の一環として実施されます。これは、我が国の貴重な財産である文学やノンフィクションを英語圏へ広く紹介する重要な枠組みです。事業を主導する出版文化産業振興財団は、昨年の春に中村さん側へアプローチを行い、セキュリティ面への配慮から電子書籍化を見送るなどの条件をクリアして、無事に翻訳の許諾を得るに至りました。
世界の融和を願う中村哲さんの「義と仁」の精神を未来へ紡ぐ
計画では約2000部が印刷される予定で、来年となる2021年3月頃には、そのうちの約1100部が海外の主要な機関へと届けられる見込みです。中村さんは2019年12月4日、アフガニスタン東部を移動中に武装集団からの銃撃を受け、73歳でその尊い生涯を閉じました。生前の2019年8月に面会した財団の担当者に対し、中村さんはこれまでの自らの歩みを振り返り、「義と仁の世界で生きてきた」という極めて深い言葉を漏らしていたそうです。
ここで使われた「義と仁」という言葉は、利己的な欲に走らず人として正しい道を歩むこと(義)と、他者を思いやり深い慈しみの心を持つこと(仁)を意味する、東洋の伝統的な道徳観です。私は、銃や暴力ではなく、大地を潤す水と深い愛によって現地の人々と信頼を築いた中村さんこそ、この精神を体現した真の英雄であると考えます。今回の英訳事業を通じて、対立が絶えない現代の世界に、融和と共生を導く彼の崇高な理念が広く語り継がれることを切に願ってやみません。
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