【音楽×デザインの巨匠】作曲家・西村朗が語る「絶対的な師」杉浦康平との30年。アジア的混沌が響き合うCDジャケットの秘密

2019年5月30日、日本経済新聞のコラム「こころの玉手箱」にて、現代音楽界を牽引する作曲家・西村朗氏のエッセイが掲載され、文化芸術ファンの間で静かな感動を呼んでいます。連載4回目となる今回は、西村氏の創作の根幹に関わる「思想の師」について語られました。西村氏が作曲家としての道を歩み始めた1970年前後は、武満徹氏をはじめとする才能がひしめく、まさに日本作曲界の黄金期でした。多くの音楽的な先達に囲まれながらも、氏が「絶対的な師」と仰ぐのは、意外なことに音楽家ではありませんでした。

その人物とは、グラフィックデザイナーであり、図像学の第一人者としても知られる杉浦康平さんです。杉浦さんは、アジア全域に広がる伝統的な図像(イコノグラフィー)の研究をライフワークとし、その膨大な知識と解析力で世界的に評価されています。西村氏にとって杉浦さんは、単なるジャケットデザイナーという枠を超え、自身の音楽哲学を視覚化してくれる唯一無二の存在なのです。30数年前に知人を介して出会って以来、二人の巨匠は芸術の深淵で共鳴し続けてきました。

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「直線」の欧州、「曲線」のアジア。ヘテロフォニーへの昇華

このコラムで特に興味深いのは、二人が共有する世界観の解説です。杉浦さんの研究対象である曼荼羅(まんだら)や渦巻き模様といったアジアの図像は、多様でありながら曖昧で、曲線的な性質を持っています。これは、物事を直線的かつ二元論(白か黒か、善か悪か)で割り切ろうとするヨーロッパ的な思考とは対極にあるものです。この「アジア的な混沌と流動」こそが、西村氏が追求する音楽技法「ヘテロフォニー」の概念と完全に合致したといいます。

ここで「ヘテロフォニー」について少し補足しましょう。これは音楽用語で、一つの旋律を複数の奏者が同時に、それぞれ微妙に異なる装飾やリズムで演奏する形態を指します。西洋音楽のような整然としたハーモニーではなく、ズレや揺らぎが生み出す厚みのある響きが特徴です。西村氏は、自身の音楽が持つこの複雑で多層的な響きを、杉浦さんの描く「虹色のモチーフ」や緻密なデザインに見出したのでしょう。これまでに「四神」や「シェーシャ(聖蛇)」など、20作以上ものCDジャケットがこのコラボレーションによって誕生しています。

SNSで広がる共感と、異分野交流の尊さ

このコラムを受け、SNS上では音楽ファンやデザイン愛好家から感嘆の声が上がっています。「西村先生の音楽と杉浦先生のデザイン、まさに最強のタッグだ」「CDジャケットを見るだけで音が聞こえてくる気がする」「86歳になっても現役で影響を与え続ける杉浦康平さんの凄みに震える」といった書き込みが見られ、二人のレジェンドが織りなす濃密な関係性に多くの人が魅了されているようです。デジタル配信が主流となりつつある今だからこそ、ジャケットアートという「物」としての価値が見直されているのかもしれません。

コラムニストとして私が感銘を受けたのは、西村氏が自らの専門外である「図像学」の知見を、自身の創作の核として取り入れている点です。現代は専門分化が進み、蛸壺化しがちな時代ですが、真の独創性とは、こうした異分野との深い対話から生まれるものではないでしょうか。杉浦さんは現在86歳。その衰えぬ知性とデザイン哲学に触れることで、西村氏の創作意欲は今なお高まり続けています。異なる道を極めた二つの魂が響き合う様は、私たちに「学び続けること」の美しさを教えてくれているようです。

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