「子は繁栄」という格言をご存じでしょうか。2020年の幕開けとともに、日本のバイオベンチャー業界に大きな変革の波が押し寄せています。東京証券取引所は2019年12月末、バイオベンチャーの上場審査における重要なポイントを改定しました。これまでは大手の製薬会社と提携することが実質的な条件でしたが、今後は自社で販売ルートを確保し、将来の収益性を見通せれば上場が可能になります。これにはSNSでも「革新的な薬が世に出やすくなる」と期待の声が上がっています。
バイオベンチャーは、革新的な医薬品や医療技術の開発を目指す新興企業のことです。一般的な企業とは異なり、薬の候補を見つけてから実用化するまでに膨大な時間と開発資金が必要となるため、赤字の状態で上場することが珍しくありません。これまでは「将来的に黒字化できる確実性」という曖昧な基準が求められていたため、資金力や開発力のある大手製薬企業と組むことが市場から信頼を得るための唯一の証明書となっていました。
希少疾病へのアプローチが生み出す新たな事業戦略
しかし、患者数が全国で数名しかいないような「希少疾病(患者数が少なく治療法が確立されていない病気)」の治療薬であれば、話は変わります。治療できる医療機関が限られているため、大企業の巨大な販売網に頼らなくても、ベンチャー企業が自力で届けることが十分に可能です。さらに厚生労働省が新設した「条件付き早期承認制度」が追い風となります。これは治験のデータが限られていても、安全性と有効性が推定されれば、市販後に調査を継続することを条件に早期に発売を認める制度です。
開発期間が短縮される一方で、市場が小さく利益が出にくいという課題は残ります。ですが、最初はコンパクトに開発して病気に苦しむ方へ薬を届け、その後に市場の大きい別の病気へと応用していく戦略をとれば、十分な収益を確保できるでしょう。今回の改定によって、ベンチャー企業が独自の戦略で勝負できる柔軟性が生まれたことは間違いありません。いち早く患者さんに希望を届けられる仕組みが整ったことは、社会的にも極めて意義深い進歩であると確信しています。
急拡大する責任と、投資家に求められる厳しい「目利き」の目
一方で、この規制緩和を手放しで喜んでばかりもいられません。製薬会社との提携がないということは、プロによる厳格な「デューデリジェンス(投資対象の価値やリスクを詳細に調査すること)」を経ていないことを意味します。科学的な根拠や採算性が専門家の目でシビアにチェックされないまま市場に登場するため、投資家自身がその企業の真の実力を見極めなければなりません。また、薬の安全性情報を集めたり、安定して製造したりする重い社会的責任もベンチャー自身が背負います。
これからのバイオベンチャーには、経営や科学、法規制など多岐にわたる分野の優秀な人材が集まることが不可欠です。SNS上でも「投資する側の自己責任が重くなる」「専門知識のない個人投資家には見極めが難しいのでは」という冷静な指摘が飛び交っています。このチャンスを活かして有望な企業がねずみ算式に増え、本当の意味で繁栄するためには、企業側の誠実な情報開示と、市場の健全な育成が何よりも求められるでしょう。
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