鳥取・大山から次世代の赤ひげ先生を!地域医療の最前線「家庭医療教育ステーション」が描く総合診療医の未来

鳥取県のシンボルである大山のふもとで、日本の地域医療の在り方を変える大きな一歩が踏み出されました。鳥取大学医学部は2019年04月01日、大山町にある大山診療所を舞台に、次世代の総合診療医を育てる「家庭医療教育ステーション」を設置しました。この取り組みは、単なる診療所の運営にとどまらず、大学病院の指導医が常駐して学生たちに生きた医療を教える、全国的にも注目される教育拠点となっているのです。

現場を支えるのは、所長として赴任した朴大昊(パク・テホ)医師です。2019年05月下旬の診察室では、患者さんの日焼け具合から農作業の苦労を察し、笑顔で言葉を交わす朴先生の姿がありました。このように病気だけを見るのではなく、患者さんの生活背景や家族構成まで把握して寄り添う姿勢は、SNS上でも「これこそが理想の町医者の姿」「数値だけでなく人を見てくれる安心感がある」と、大きな共感の輪を広げているようです。

ここで注目されている「総合診療医」とは、特定の臓器や疾患に特化するのではなく、内科や小児科など幅広い領域を網羅し、心理面や社会環境まで考慮して診断を下すスペシャリストを指します。大学病院のような高度に専門分化した医療機関では、特定の病気を深く掘り下げる一方で、患者さんという「人間全体」を俯瞰して診る機会が少なくなりがちです。だからこそ、こうした地域に密着した学びの場が、今まさに求められています。

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教科書では学べない「ドクターズドラッグ」という医者の在り方

2019年度は、医学部5年生の約4分の1にあたる28人が、1週間交代でこの診療所での臨床実習に挑んでいます。現場に立った学生たちは、大学で学んだ知識がそのまま通用しない現実に驚きを隠せません。目の前の患者さんは教科書通りの症状を訴えるわけではなく、日々の暮らしや孤独、不安といった複雑な背景を抱えています。朴所長の巧みな対話術を間近で見た学生が、その奥深さに思わず舌を巻く場面も珍しくありません。

朴所長が学生たちに伝えているのは、医師自身が治療の道具になるという「ドクターズドラッグ(医師という薬)」の精神です。これは、医師の存在感や接し方そのものが、患者さんの不安を和らげ、治癒力を引き出す「薬」として機能することを意味しています。専門知識の習得はもちろん不可欠ですが、地域医療の最前線では、一人の人間としての誠実さや包容力といった「人としての厚み」が、何よりも重要な資質として試されるのでしょう。

大山町にとって、この拠点の誕生は10年来の悲願でした。2005年の合併当時に29.6%だった高齢化率は、2019年には38.8%にまで急上昇しています。2009年以降は常勤医が不在という厳しい状況が続いていましたが、今回の大学との連携により、ようやく安定した医療体制が戻ってきました。町は約1700万円を投じて病棟を宿泊施設に改修するなど、未来の医師を温かく迎え入れる準備を整え、彼らが全国へ羽ばたく日を夢見ています。

病気を治すことは医師の義務ですが、患者さんの心に寄り添い、共に歩む地域医療には、効率化だけでは測れない尊い価値があります。大山の大自然に抱かれたこの診療所から、技術と慈しみの心を兼ね備えた「現代の赤ひげ先生」が数多く誕生することを期待せずにはいられません。私たちも、地域の医療を支える一歩として、こうした情熱ある教育の試みを温かく見守り、応援していく必要があるのではないでしょうか。

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