日常の風景に溶け込んでいるけれど、一体何を生業にしているのか見当もつかない会社を見かけることはありませんか。エッセイストの武田砂鉄さんは、そんな「謎の会社名」を記憶しては、移動中の隙間時間に検索して正体を突き止めることを長年の趣味とされているそうです。
たとえば、2019年11月13日の執筆時点で例に挙げられた「株式会社ドリーム・イノベイティブ(仮名)」という会社。外から覗けば作業着とスーツの人が入り混じり、ホワイトボードの目標欄が空白のままという、どこか力の抜けた雰囲気が漂う10人ほどの小さな組織です。
ところが、一歩踏み込んで検索の海へ飛び込んでみると、意外な真実が浮かび上がってきます。いつも奥に座っていた作業着の男性が、実は数年前に「半導体」の分野で革新的な成果を上げた社長さんだったという、ドラマのようなギャップに遭遇することもあるのです。
ちなみに半導体とは、電気を通す性質と通さない性質の両方を持ち合わせ、スマートフォンや家電など現代の精密機器には欠かせない「産業のコメ」と呼ばれる重要な電子部品のことです。こうした専門的な世界で活躍する人物が、すぐそばで黙々と働いている事実は驚きですよね。
社長の歩みを知ることで変わる日常の景色
検索結果から判明する社長のプロフィールも、親近感を抱かせる要素に満ちています。学生時代のラグビー部での活動や、大手メーカー勤務を経て35歳で独立した苦労話、そして行き着いた「誠意が大切」という真っ当な信念に、どこか心が温まるのではないでしょうか。
一見すると平凡なインタビュー記事かもしれませんが、その背景を知るだけで、いつもの通勤路や散歩道がこれまでとは少し違った、奥行きのある景色に見えてくるから不思議です。知らない誰かの人生の断片に触れることは、街そのものに愛着を持つきっかけになります。
ネット上でも「この感覚、すごくよくわかる!」「看板だけで判断できない面白さがある」といった共感の声が広がっています。企業のホームページや社長のSNSを覗く行為は、現代における最も手軽で、それでいて奥深いフィールドワークなのかもしれません。
もしも2019年11月13日の信号待ちで、偶然隣り合った社長に「昔のラグビー界と比べて今の日本代表は強いですね」と話しかけたら、きっと腰を抜かして驚くことでしょう。そんな想像を膨らませるだけで、何気ない日常のひとときが一段と豊かで愉快なものに変わります。
私たちが毎日すれ違っている人々の中にも、実は世界を変えるような技術を支えている「名もなきヒーロー」が隠れているはずです。皆さんも、ふと気になった社名があれば、その扉をデジタルでノックしてみてはいかがでしょうか。新しい発見が待っているはずです。
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