イギリスの政治史に刻まれる大きな転換期がいよいよ到来しました。ロンドンからの報道によれば、イギリス議会下院は2020年01月09日、欧州連合(EU)からの離脱条件を定めた関連法案を、与党などの賛成多数で可決する見通しです。今後は上院の追認も確実視されており、2020年01月末のEU離脱が事実上確定することになります。国民投票から約3年半もの間、混迷を極めた「ブレグジット(イギリスのEU離脱)」が、ついに決着へと向かいます。
SNS上では「ようやく一歩前進した」「長かった議論にやっと終止符が打たれる」と安堵する声が広がる一方で、「今後の経済への影響が心配」という根強い不安も渦巻いています。そもそも、当初は2019年03月末に予定されていた離脱がここまで長引いた背景には、イギリス議会内の深刻な分断がありました。前首相のメイ政権が選挙で過半数を割り込み、北アイルランドの地域政党との連立を余儀なくされたことで、議会のコントロールを失ってしまったのです。
メイ前首相はEU側と合意した離脱協定案を議会に3度も拒絶され、無念の退陣に追い込まれました。その後、2019年07月に就任したジョンソン首相も新たな協定案をまとめましたが、野党の激しい抵抗により、公約していた2019年10月末の離脱を延期せざるを得ない事態に陥っています。この泥沼の状況を一変させたのが、ジョンソン首相が決断した議会の解散と総選挙でした。ここで、歴史的な政治の地殻変動が起こることになります。
下院の定数650議席のうち、与党・保守党はサッチャー政権以来の快挙となる365議席を獲得して圧勝しました。この巨大与党の誕生により、ジョンソン首相は議会の主導権を完全に掌握したのです。ネット上では「強引すぎる手法だ」という批判もありましたが、結果として政治の停滞を打ち破る強力な推進力を得たことは間違いありません。決定権が一極に集中したことで、これまでの優柔不断な議会運営とは決別することになるでしょう。
「合意なき離脱」の懸念と巨大与党がもたらす新たな可能性
しかし、楽観視できない課題も山積みです。2020年01月08日の議会では、野党・労働党から「移行期間」を2020年末から延長しない首相の方針へ批判が噴出しました。移行期間とは、離脱による社会や経済の混乱を和らげるために設けられた、ルールを据え置く猶予のフェーズです。この期間中にイギリスとEUの間で「自由貿易協定(FTA)」を結べなければ、関税が復活して経済が大混乱する「合意なき離脱」と同じ危機に直面してしまいます。
野党の懸念に対して、ジョンソン首相は「悲観論者の予測にすぎない」と一蹴し、与党席からは歓声が沸き起こりました。筆者の視点としては、首相のこの強気な姿勢には期待半分、不安半分といったところです。迅速な意思決定が可能になった一方で、慎重な議論が軽視されるリスクもはらんでいます。今後のEUとの通商交渉では、議会の顔色をうかがう必要がなくなった巨大与党の強みを活かし、粘り強く国益を守る舵取りが求められるでしょう。
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