自動車業界に押し寄せる「CASE」の波をご存じでしょうか。これは、つながる車、自動運転、シェアリング、電動化の頭文字を取った言葉です。今回は、その中でも特に人々の暮らしを大きく変えつつある「シェアリング(共有)」の最前線に迫ります。都市部を中心に今、これまでの常識を覆す「駐車場のない一戸建て」が注目を集めています。
三井不動産レジデンシャルは2019年12月、東京都品川区の中延駅近くで、同社としては初となる駐車場を設けない戸建て物件の引き渡しを開始しました。限られた敷地の中で駐車場を諦めた結果、建物は3階建てではなく2階建てに抑えられ、建設コストの削減に成功しています。近隣の新築マンションよりも割安な価格設定が実現したそうです。
車がない生活に不安を感じる方もいるかもしれませんが、そこには抜かりない仕組みが用意されています。物件の近くには、同社グループが展開するカーシェアリングの拠点が存在するのです。しかも、住宅の購入者は毎月980円かかる会員費用が免除されます。これを機に愛車を手放す決断をした購入者もいるほど、生活への密着度が高まっています。
ネット上でもこの大胆な取り組みは大きな話題を呼んでいます。SNSでは「都内なら維持費を考えてもカーシェアで十分」「浮いた建設費で安くなるなら賢い選択だ」といった賛同の声が目立ちます。一方で「子育て世代にはやはりマイカーが便利では」という意見もあり、個人のライフスタイルによって受け止め方は多様なようです。
住宅情報サイト「スーモ」の調査によると、首都圏のマンション契約者で駐車場を希望しない人の割合は、2007年の20パーセントから、2018年には5割を超えました。物件価格が高騰する中で、利便性の高い場所を選びつつ、車は所有から共有へと切り替える賢い消費者が増えているのでしょう。こうした需要を背景に、国内のカーシェア会員数は2019年時点で162万人に達し、わずか3年で倍増という急成長を遂げています。
世界の先進事例と自動車産業が抱えるこれからの課題
こうした移動の変革で世界をリードしているのがシンガポールです。東京23区ほどの限られた国土に多くの人々が暮らす同国では、道路や駐車場をこれ以上増やすことができません。そこで2014年に「スマートモビリティー2030」を掲げ、ITを駆使した交通社会への転換を始めました。配車アプリや電気自動車の共有サービスが浸透し、車の総量を増やさずに渋滞を抑え込んでいます。
意識の変化は日本でも顕著であり、44歳以下の若い世代では半数以上が「車を所有する必要はない」と考えているようです。これまではステータスシンボルだったマイカーですが、現代の若者にとっては、コストパフォーマンスや合理性を重視した結果として「必要な時にだけあればいい存在」へと形を変えていることが伺えます。
しかし、この変化は日本の基幹産業である自動車製造業にとって大きな揺らぎを意味するはずです。新車が売れなくなれば、これまでの経済構造が維持できなくなる恐れもあります。メーカー自身がシェア事業に乗り出す動きもありますが、企業単位の対策だけでは追いつかないかもしれません。社会全体を豊かにする仕組みづくりが今まさに求められています。
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