日本のものづくりに異変?自動車一極集中の危うさと産業ピラミッドが揺らぐ真実

日本の製造業を長年支えてきた産業構造に、今まさに大きな地殻変動が起きています。日本最大最古の鉄鋼会社である日本製鉄が公開した新たな財務指標が、業界内に大きな衝撃を与えているのです。本業の製鉄業がどれだけ稼げているかを示す「在庫評価差を除いた単独営業利益」という実力値において、2019年3月期まで2年連続で赤字を記録しました。世界的な鉄鋼需要が過去最高を更新するなかでのこの苦境は、日本のものづくりの構造的な変化を物語っているでしょう。

SNS上では「あの巨大な日鉄が赤字なんて信じられない」「日本の製造業のバランスが崩れているのではないか」といった、将来を不安視する声が数多く上がっています。かつては造船や電機など、多様な大口顧客が鉄鋼業界を支えていました。しかし時代の変化とともにそれらの産業が縮小し、今では国内出荷のほぼ半分を逆転劇のように自動車向けが占めるまでになっています。この極端な自動車一極集中こそが、素材メーカーの収益を圧迫する最大の要因なのです。

毎年厳しい原価低減、つまりコスト削減を求められる自動車メーカーとの力関係において、サプライヤー側の立場は弱くなりがちです。三菱ケミカルホールディングスの小林喜光会長が「自動車メーカーに対して私たちは隷属的な立場」と率直に明かすほど、パワーバランスの差は歴然としています。長年培われた買い手優位の取引慣行が、素材メーカーのマージン(利ざや)を極限まで削り取っているのが実態でしょう。日鉄の赤字公表は、不退転の覚悟で値戻し交渉に挑む決意表明と言えます。

自動車産業が強力な国際競争力を維持し、日本経済の雇用や取引の裾野を支える絶対的な主柱であることは間違いありません。しかし、「一つのバスケットに全ての卵を盛るな」という格言があるように、自動車一本足の現状は極めて危ういリスクを孕んでいます。もし次世代技術のCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化の頭文字をとった自動車界の次世代革新トレンド)対応に躓き、日本車が世界で失速した時、バトンを引き継げる次の主軸産業が見当たらないからです。

さらに深刻なのは、自動車産業のなかでも「トヨタ自動車への一極集中」が加速している点でしょう。かつて日産自動車が示した経営のダイバーシティ(多様性や路線の違い)は影を潜め、今や中堅メーカーもトヨタとの提携に活路を見出す時代です。私は、この過度な集中は日本の製造業全体のイノベーション力を奪いかねないと危惧しています。ピラミッドの頂点が揺らいだ時、すべてのサプライヤーが共倒れになるリスクを直視し、今こそ自動車依存から脱却する新たなビジネスモデルを模索すべきです。

スポンサーリンク

脱・自動車依存への挑戦!素材・部品メーカーが歩むべき新たな生存戦略

世界全体の鉄鋼需要において、自動車向けが占める割合は1割以下に過ぎません。海外の鉄鋼メーカーは建材など他の市場で利益を確保できますが、自動車比率が高すぎる日本の高炉メーカーはその余地が限られています。このまま収益悪化が続けば、研究開発への投資が先細りし、海外の巨大ライバル勢に量だけでなく質でも劣後するという最悪のシナリオが現実味を帯びてくるでしょう。だからこそ、今あるバリューチェーン(製品が顧客に届くまでの付加価値の連鎖)の変革が急務なのです。

すでに先見の明を持つ企業は、量に依存しない高付加価値市場への転換を進めています。三菱ケミカルはトン単位の自動車用樹脂から、グラム単位で利益率が高い医薬品や化粧品分野へのシフトを狙っています。また、ブリヂストンの石橋秀一副会長も、ビッグデータを活用した故障予知などを発展させ、最終ユーザーに直接価値を届ける方針を示しました。このように、ただの部品供給者から脱却し、独自の強みで直接市場と繋がることが今後の生存戦略になるでしょう。

2020年1月7日に開催された自動車業界の賀詞交歓会には、2000人近くが集まりましたが、そこには主役であるはずのトヨタ自動車の豊田章男社長の姿はありませんでした。同氏はアメリカの技術見本市でスマートシティー構想を披露することを優先したのです。既存の産業ピラミッドにしがみつくだけでは未来はないという、強烈なメッセージではないでしょうか。サプライヤー各社も、既存の枠組みに甘んじることなく、自らの力で新たな価値を創出する決意が必要不可欠です。

コメント

タイトルとURLをコピーしました