瀬戸内海の美しい海原を臨む愛媛県松山市で、まるでヨーロッパの地中海を思わせるような壮大なものづくりが幕を開けようとしています。イタリアでの生活経験を持つ松岡健太氏が代表を務める「ウテナ銘酒」が、地域の耕作放棄地を美しいブドウ畑へと蘇らせるプロジェクトを始動させました。地域の新しい観光資源として、過疎化や農業の後継者不足に悩む地方を活性化させる起爆剤になるのではないかと、今から大きな期待が寄せられているのです。
ネット上でもこの試みに対して「瀬戸内の気候なら絶対に美味しいワインができるはず」「使われなくなった土地が生まれ変わるのは素晴らしい取り組みですね」といった、熱いエールや好意的なコメントが数多く寄せられています。今回の挑戦は、単なるお酒造りにとどまらず、日本の地方が抱える農業課題に対して、新風を吹き込む素晴らしいビジネスモデルになるでしょう。
代表の松岡氏は松山市の出身であり、愛媛大学などを経て2017年からはイタリアのフィレンツェ郊外にある天文台で、宇宙の謎である超巨大ブラックホールを探索する高精度な研究に没頭していたという、異色の経歴を持つ人物です。研究の過程で地中海沿岸の国々を巡るなかで、温暖で晴天が多い気候や柑橘類の栽培が盛んな風景が、故郷である瀬戸内地方に非常に酷似していることに気づいたといいます。
特にイタリア北西部に位置し、世界遺産にも登録されている美しい海岸沿いのワイン名醸地「チンクエ・テッレ」の情景が、愛媛の景色と強く重なりました。海からの心地よい潮風がもたらすミネラル(カルシウムやマグネシウムなどの豊富な無機質成分)をたっぷり含んだ白ワインの美味しさに、深い感銘を受けたそうです。傾斜地に広がる愛媛の柑橘畑は水はけが抜群に良く、太陽の光を満遍なく浴びることができるため、最高品質のブドウ栽培にも最適であると確信したのでしょう。
日本国内におけるワインの醸造所は、山梨県や北海道、長野県といった特定の地域に一極集中しているのが現状です。国税庁が発表した2018年3月31日時点の統計データによると、全国に303カ所あるワイナリーのうち、上位の5道県だけで全体の約6割を占めており、瀬戸内エリアでの本格的な展開は非常に珍しい試みといえます。松岡氏は2018年秋に帰国すると、愛媛県果樹研究センターでブドウ栽培のイロハを1年間猛勉強し、2019年にウテナ銘酒を設立しました。
まずは2020年春に、松山市内にある約4000平方メートルの耕作放棄地を活用して、記念すべき最初の苗木を植樹する予定です。赤ワイン用の高級品種であるカベルネ・ソーヴィニヨンやメルロー、そして白ワインの王道であるシャルドネを合わせて1000本ほど植える計画が進められています。さらに2021年には3000本を追加し、栽培面積を1万平方メートル以上にまで拡大する予定となっており、その規模の大きさに圧倒されます。
現在は1口1万1000円で苗木のオーナーを募集中であり、2019年12月31日の時点で早くも約200件もの応募が集まるほどの人気ぶりです。この先行投資ともいえるオーナー制度は、2020年3月31日まで申し込みを受け付けています。待望の自社醸造は2023年秋を予定しており、まずは免許取得の要件を満たす年間6キロリットル(ボトル換算で約8000本分)の生産を目指し、1本3800円前後での一般販売を想定しています。
さらに、ワインの完成を待つ間の2020年夏からは、イタリア伝統の柑橘リキュールである「リモンチェッロ」に着想を得た特製リキュールの製造販売を開始します。すでに今治市のしまなみ海道沿いにある大島に施設を確保しており、地元農家から仕入れた新鮮なレモンや伊予柑、デコポンなどの皮をアルコールに漬け込んで造る、爽快感あふれるお酒です。アルコール度数は約30度と高めですが、強いお酒が苦手な方でも炭酸水やジンジャーエールで割ることで、爽やかに楽しめる工夫がなされています。
このリキュール事業は、地域の未来を担う有望なビジネスとして「愛媛グローカルビジネス創出支援事業」の補助金対象に採択されたほか、伊予銀行主催のビジネスコンテストでも地域ブランディング賞を受賞しました。将来的には、ワイナリーに地元の食材を楽しめるレストランや宿泊施設を併設し、夜は満天の星空を眺めながら極上の一杯を嗜むという、最高にロマンチックな観光名所にする構想も練られています。ウテナ銘酒が紡ぐ100年後の未来に向けた新しいワイン文化の誕生を、これからも温かく見守っていきたいものです。
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