今、日本の酒造業界で、従来の枠にとらわれない斬新な市場開拓への挑戦が始まっています。伝統ある日本酒の老舗、白鶴酒造(神戸市)と、地ビールで知られる新潟麦酒(新潟市)が、それぞれ全く新しいアプローチで消費者層の拡大を目指しているのです。特に白鶴酒造は、経験の浅い20代から30代の若手社員が中心となり、これまでの常識を覆すような新感覚の日本酒ブランド「別鶴(べっかく)」を立ち上げました。この意欲的な試みは、新しいお酒との出会いを求める人々の間で大きな話題を呼ぶことでしょう。
「これまでにはない、まさに別格の酒を造り上げる」という熱い想いを込めて企画された「別鶴」は、2019年6月に第1弾として3商品を世に送り出しました。そのユニークな商品名も注目を集めています。「木漏れ日のムシメガネ」「陽(ひ)だまりのシュノーケル」「黄昏(たそがれ)のテレスコープ」という、まるで詩のようなネーミングが、既存の日本酒のイメージとは一線を画しています。使用しているのは、酒米の王様として知られる山田錦の兄弟品種で、白鶴が独自開発した「白鶴錦」を100%使用しているとのこと。いずれも720ミリリットル瓶入りで、参考小売価格は税別2,500円に設定されています。
特に「木漏れ日のムシメガネ」は、若者に日本酒を飲んでもらいたいという明確な狙いのもと、これまでの日本酒の常識を打ち破る大胆な設計が施されました。アルコール分は11~12%と控えめに抑え、日本酒度はなんとマイナス45という極端な甘口に仕上がっています。ここでいう日本酒度とは、水の比重をゼロとして、酒の比重を示した指標であり、マイナスが大きいほど甘口であることを示します。さらに、酸度が8と非常に高く、その味わいは「レモングラスのような香りと爽やかな酸味」と表現されています。ちなみに、白鶴の代表銘柄である「まる」と比較すると、アルコール分は13~14%、日本酒度はプラス1、酸度は1.2であり、「ムシメガネ」との違いは歴然。ベテラン社員から「これが日本酒なのか」という声が漏れるほど、規格外のチャレンジ精神が垣間見えます。
商品開発に携わった平井猛博さん(29)は、「この新商品がきっかけとなり、日本酒ってこんなにも面白いものなんだと感じてもらい、他の日本酒にも興味を持ってもらえれば嬉しい」と期待を語っています。この革新的なプロジェクトでは、販売戦略においても新しい試みが導入されました。インターネットを通じて小口の資金を集めるクラウドファンディングを活用し、目標を大きく上回る532万円を集めています。出資者には先行販売を実施するなど、新しいファンとの関係構築にも積極的。集まった資金は、早くも第2弾の商品開発などに充てられる予定とのことで、今後の展開にも目が離せません。
一方、新潟麦酒は、ウイスキー製造という全く異なる分野への本格的な参入を発表しました。同社は、2018年に輸入原酒をブレンドしたブレンデッドウイスキー「越ノ忍」を生産・販売し、ウイスキー事業をスタートさせていますが、今度は新潟県佐渡市に製造拠点を設けます。地元企業と連携し、佐渡島の小木港近くの建物を蒸留所へと改修し、2019年9月からの製造開始を目指しているのです。これは、地元の資源を活かした地域創生にも繋がる、非常に意義深い挑戦であると私は考えます。
原料には佐渡産の大麦を使用し、将来的には貯蔵庫も佐渡市内に建設する予定です。佐渡の豊かな自然と特有の気候を利用して熟成させたウイスキーは、その土地ならではの個性を持ち、観光商材としても大きな可能性を秘めています。初期の設備投資額は約2,000万円で、当初は2台の蒸留器を導入し、9月からシングルモルトウイスキーの製造を開始する計画です。初年度の生産能力は3万リットル程度ですが、順次引き上げられる見込みとのこと。樽詰めした原酒は一旦、新潟市内で貯蔵されますが、将来的には佐渡蒸留所の近くの高台に貯蔵庫を設け、佐渡の気候の中でじっくりと熟成されることでしょう。
SNSで広がる期待の声と、老舗酒造の新しい挑戦への評価
SNS上では、特に白鶴酒造の「別鶴」ブランドに対し、「日本酒のイメージが変わる!」「レモングラスの香りの日本酒なんて飲んでみたい」といった、若年層を中心とした大きな反響が見受けられます。長年にわたり日本の食卓を支えてきた老舗が、既成概念にとらわれず、経験の浅い若手社員の感性を最大限に活かすという企業姿勢は、日本酒業界全体に新風を吹き込むものだと評価できます。日本酒に馴染みの薄い層へのアプローチとして、非常に効果的な戦略でしょう。
また、新潟麦酒の佐渡島でのウイスキー製造参入は、単なる酒造りの枠を超えた取り組みです。蒸留所や貯蔵庫には観光客向けの見学スペースを設ける計画もあり、佐渡島の新たな観光スポットとしても売り出していく方針です。これは、スコットランドのスコッチウイスキーや、日本のジャパニーズウイスキーの名産地に見られる、酒造りを核とした地域ブランド戦略と共通するものであり、佐渡の魅力を高める上でも大きな役割を果たすと確信しています。今後、佐渡の自然が育むウイスキーが世界に通用する銘酒となる日が来るかもしれません。日本の酒造業界の未来を切り拓く、白鶴酒造と新潟麦酒の挑戦から、ますます目が離せません。
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