【注目裁判】切削工具の「営業秘密」持ち出しの動機は?富士精工元社員事件、2019年6月6日の名古屋地裁判決に迫る

愛知県豊田市に本社を置く切削工具メーカー「富士精工」の機密情報が不正に持ち出されたとされる事件で、不正競争防止法違反の罪に問われた中国籍の元社員、申永輝(しんえいき)被告(31)に対する判決が、いよいよ2019年6月6日に名古屋地裁(山田耕司裁判官)で言い渡される予定です。この裁判では、企業の財産とも言える営業秘密を元社員が持ち出した「動機」を裁判所がどのように判断するのかが最大の焦点となっています。営業秘密とは、企業が競争力を維持するために秘密として管理している技術情報や顧客情報などのことで、今回は製品の設計データなどが含まれます。

検察側は、申被告が「転職に利用する目的があった」と厳しく指摘し、事件の悪質性を強調しています。これに対し申被告は一貫して「自宅で勉強するためだった」と主張しており、この食い違いが判決の行方を左右すると見られています。2019年5月の被告人質問で、申被告は「自宅で勉強して知識をつけようと思った」「データ持ち出しが違法と分かっていたが、頭に入れるだけなら問題ないと考えた」と動機について説明しました。被告は富士精工で製品マニュアルの作成を担当していた人物です。

事件の経緯として、検察側の主張によれば、申被告は上司との休暇の取り方をめぐるトラブルが発生した直後の2018年10月ごろから、データの複製を開始したとされます。私用のUSBメモリーを使い、ドリルの刃先の設計データなど、企業にとって極めて重要な営業秘密164件を含む、合計10万件を超える大量のデータを持ち出したとされているのです。このデータ持ち出しは、企業の競争力を削ぐ行為として非常に深刻な事態です。

特に検察側が注目しているのは、申被告がデータを転職に利用しようとしていたとされる点です。申被告は実際に中国で就職活動を行っており、SNS(交流サイト)でのやり取りが証拠として提出されています。中国の知人に対し、「秘密資料を仕事探しに役立てようと思っている」「売れるなら売りたい」といったメッセージを送っていたことが明らかにされました。さらに、「日本の警察の捜査は中国まで及ばない」といった発言も確認されており、計画的な犯行であった可能性を検察側は指摘していることでしょう。

しかし、申被告はこれらの主張に対し、第三者への情報漏洩そのものは否定しています。SNSでの発言についても、「すごいものを持っているとアピールしたかっただけで、売るつもりはなかった」と強く反論している状況です。データが持ち出された結果は重大であるとして、検察側は懲役2年、罰金50万円という厳しい刑罰を求刑しています。一方で弁護側は、経済的な利益を得る目的はなかったと主張し、刑の執行を猶予する執行猶予付きの判決を求めています。執行猶予とは、有罪判決を言い渡すものの、定められた期間中に再び罪を犯さなければ刑の執行が免除される制度のことです。

この事件は、企業がデジタルデータとして保有する「営業秘密」をどのように保護すべきか、そして転職や退職に伴う情報の持ち出しリスクについて、社会全体に警鐘を鳴らす事例であると考えられます。特にSNSでの軽率な発言が動機を裏付ける証拠とされてしまう現代において、個人の行動が企業の機密保護に直結する事実を強く認識する必要があるのではないでしょうか。裁判所が、大量のデータ持ち出しという「結果の重大性」と、「勉強目的」や「アピール目的」という申被告の主張する「動機」のどちらを重く見るのか、日本企業の知財保護の観点からも、2019年6月6日の判決を注視したいところです。

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