2019年6月12日、アメリカ合衆国(米国)のトランプ政権が中国からの全輸入品に関税を課す「第4弾」の発動を示唆したことで、米国の大手小売り企業など、消費者関連企業の経営に深刻な影を落とし始めています。もし米中首脳会談が6月中に実現しなければ、ただちに発動される見通しの「第4弾」は、これまでの産業用部品などに加え、日用品や食料品といった消費財にまで高関税の対象が広がるため、企業は値上げや調達・生産拠点の変更といった緊急対応に踏み切っています。
特に影響が大きいのは、米国の消費者にとって身近な小売業界です。米小売り最大手のウォルマートのブレット・ビッグス最高財務責任者(CFO)は、これまで仕入れ業者への値下げ要請などで関税のコスト増を吸収し、消費者に価格を転嫁する値上げを回避してきたものの、「第4弾」が発動されれば、一部商品の値上げは避けられない状況であると述べています。ウォルマートの米国売上高の半分近くは食料品が占めているため、この方針転換は米国の一般家庭の家計に直接的な影響を及ぼすことになるでしょう。
また、家電量販店のベストバイも、これまでは在庫確保などで影響を緩和できるとしていましたが、「第4弾」でほぼすべての輸入品の関税率がこれまでの10%から25%へ大幅に引き上げられることになれば、価格上昇は免れないとの見解を示しています。米国の消費者にとっては、日々の暮らしに不可欠な商品が次々と高くなるという事態が目前に迫っていると言えるでしょう。
こうした状況について、米国の投資銀行であるゴールドマン・サックスは、「第4弾」が発動された場合、コスト増加分を商品の販売価格に上乗せしにくい「低価格業態」のディスカウントストアの業績に、特に大きな影響が出ると分析しています。例えば、米国版の100円ショップとも言える「1ドルショップ」を展開するダラー・ツリーは、扱う商品の半分ほどが中国からの輸入品であり、これまでも調達先を中国以外に切り替えたり、一度に輸入する量を増やす在庫積み増しを行ったりと、様々な工夫を凝らしてきました。
しかし、同社は既にこれまでの対中関税の影響を受け、2020年1月期通期の収益見通しを下方修正しており、「第4弾」の発動はさらなる業績の悪化につながる懸念が高まっています。ダラー・ツリーのゲイリー・フィルビン最高経営責任者(CEO)は、決算記者会見で「対中追加関税の発動は、事業の収益と消費者の双方に悪影響を与える」と強く訴えており、この米中貿易戦争の行く末を案じる経営者の切実な声が浮き彫りになりました。
サプライチェーンの再構築:中国以外への生産移管が加速
高関税のリスクを回避するため、小売企業は商品の生産拠点や調達先を中国以外へと移す動きを加速させています。百貨店大手のメーシーズは、プライベートブランド(PB:企業の自主企画商品)について、中国以外の生産委託先の開拓を積極的に進めているとのことです。ジェフ・ジェネットCEOは、「2年ほど前から中国以外からの調達を増やしてきたが、ここ数カ月でその取り組みをさらに加速している」と説明しています。
メーシーズでは、中国製品が全商品の約2割を占めており、これまでの関税措置では主に家具が影響を受けてきましたが、「第4弾」が発動されれば、ほぼ全ての商品分野に影響が広がるため、サプライチェーン(商品の企画・調達から消費者に届くまでの連鎖)の見直しは急務となっているのでしょう。また、カジュアル衣料のアバクロンビー・アンド・フィッチも、2018年には25%だった中国からの調達比率を、2019年には20%以下に抑える方針を決定しています。
同社が世界で販売する衣料品の約4割が中国製であるにもかかわらず、スコット・リプスキーCFOは、「他の地域の生産能力を最大限に活用すれば、中国の生産量を半分まで減らせる」と自信を見せています。高級バッグの「コーチ」を展開するタペストリーも、フィリピンやベトナム、カンボジアなどの東南アジア地域への生産移管を推し進めている状況です。しかし、急激な生産地の変更は、新たな問題も生み出しています。
同社幹部の話によれば、東南アジアの港に積み荷が集中した結果、輸送能力の不足が発生し、3月末の商品在庫が前年から1億ドル(約100億円)も膨らんでしまいました。この問題は、東南アジアの主要港が能力増強を進めており、2020年後半には解消する見通しだということですが、中国一極集中だった世界の生産体制を短期間で変更する難しさを物語る事例だと言えましょう。この一連の動きは、単なる貿易問題に留まらず、世界のグローバルな産業構造を根本から揺さぶっているのです。
消費者マインドは堅調でも:家計への打撃は必至か
米国の企業が関税によるコスト増、ひいては個人消費に及ぼす悪影響への警戒感を強める一方で、足元の米国の個人消費は依然として堅調な推移を見せています。米ミシガン大学が公表した5月の消費者態度指数(速報値)は102.4と、4月から5.2ポイントも上昇し、2004年1月以来の15年ぶりの高水準を記録しました。消費者の景況感は悪化しておらず、現状はまだ景気後退の兆候は見られていないようです。
しかし、今後、ウォルマートなどの小売り大手による価格転嫁が本格的に始まれば、この堅調な個人消費も冷え込むことは避けられないでしょう。米調査会社トレード・パートナーシップの試算によると、米政府が「第4弾」を発動し、中国製品3,000億ドル分に最大25%の関税をかけた場合、4人家族の1世帯あたり年間平均で2,294ドル(約24.9万円)もの負担増になるという衝撃的な結果が示されました。
私は、この「第4弾」発動の可能性は、単に企業の利益を圧迫するだけでなく、最終的には米国の一般消費者の生活に深刻な影響を及ぼすという点に注目すべきだと考えます。高関税が日用品や食料品といった生活必需品にまで広がることは、低所得者層をはじめとする多くの家計を直撃し、堅調に見える米国の経済成長の足を引っ張るリスクを抱えています。米中両国は、国際的な自由貿易体制を脅かすこの問題の早期解決に向けた、建設的な対話を再開する必要があるでしょう。
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