和菓子の味わいを左右する主役、国産小豆の流通価格に大きな転換期が訪れています。2019年11月30日現在の市場動向によれば、東京における小豆の流通価格が4年ぶりに値下がりへと転じました。今夏には過去15年間で最も高い水準まで高騰し、関係者を悩ませていた価格が、前月と比較して約1割も安くなったのです。このニュースに対し、SNS上では「あんこ好きには嬉しい知らせ」「少しでも和菓子屋さんの負担が減ればいいな」といった、安堵と期待の入り混じった声が数多く寄せられています。
価格下落の大きな要因は、国内最大の生産地である北海道において、2019年産の収穫量が前年を上回る見込みとなったことです。農林水産省が2019年10月に発表したデータによると、全国の作付面積は前年比8%増の2万5500ヘクタールに拡大しました。春先の雨不足という懸念材料はありましたが、その後の天候が味方し、作柄はおおむね良好に推移したようです。供給不足に陥っていた2018年産と比較すると、市場にはようやく十分な量の小豆が行き渡り始めるという、明るい兆しが見えてきました。
輸入枠の拡大と「買い手市場」へのシフト
市場の需給バランスを整えるために政府が動いたことも、今回の価格下落を後押ししています。農林水産省は深刻な品薄状態を解消するべく、海外から小豆を輸入できる「輸入割当(輸入枠)」の追加を段階的に実施しました。2019年6月と11月にも相次いで枠を広げた結果、中国産などの流通量も増加し、一時は極限まで高まっていた品薄感は着実に和らぎつつあります。一部の専門家からは、これまでの「売り手優位」から、ようやく「買い手市場」へと局面が変わったという指摘も出ているほどです。
ここで専門用語について少し解説しましょう。「輸入割当」とは、国内の農家を保護しつつ、需要に対して不足する分を補うために、政府が輸入できる数量をあらかじめ設定する制度のことです。これによって、急激な価格高騰を抑える調整弁の役割を果たしています。今回の措置は、まさに和菓子文化の継続を支えるための「救済策」といえるでしょう。しかし、流通価格が下がったとはいえ、30キログラムあたり1万8500円前後という水準は、依然として過去数年の中では高値圏にあるのが現状です。
老舗店を襲うコストの波と品質へのこだわり
供給量が増えた一方で、現場を支える職人たちの表情は必ずしも明るくありません。東京・江東区に店を構える老舗「船橋屋」の関係者は、2018年産の記録的な高値によるコスト負担が今も経営を圧迫しており、仕入れ価格が多少下がった程度では、依然として厳しい状況が続くと語っています。また、製あん会社からは、収穫量は確保できても豆の大きさにばらつきが見られ、粒の揃った高品質な小豆はまだ高価であるという切実な声も聞こえてきます。原料高をそのまま商品価格に転嫁しにくい、和菓子業界の苦悩が浮き彫りとなっています。
私個人の見解としては、和菓子は日本の四季を彩る大切な文化資産であり、原材料の安定供給は国家的な課題だと感じています。インバウンド需要の高まりや、家庭でのプチ贅沢として和菓子の人気は根強いものがありますが、それを作る側の収益が改善されなければ、伝統の味を守ることは困難です。私たちは、一粒の小豆の裏側にある農家の努力や、苦境に耐える職人たちの想いをもっと知るべきではないでしょうか。安さだけを求めるのではなく、適正な価格で文化を支える姿勢が、消費者にも求められているのかもしれません。
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