2019年12月04日、日本の通商戦略にとって大きな転換点となる日米貿易協定が参議院本会議で承認されました。この決定により、2020年01月01日から両国間での関税削減や撤廃が順次スタートすることになります。私たちの生活に身近な輸入食品や、日本の屋台骨である製造業にどのような影響があるのか、その全貌がようやく見えてきました。
SNS上では「アメリカ産の牛肉やワインが安くなるのは嬉しい」といった期待の声が上がる一方で、「日本の自動車関税はどうなるのか」という不安や、「自由貿易の加速で国内農業への影響が心配だ」といった慎重な意見も飛び交っています。消費者と産業界の双方が、この新しい経済の枠組みに対して非常に高い関心を寄せていることが伺えます。
今回の協定の大きな特徴は、経済連携協定(EPA)としてのカバー率が劇的に向上することです。EPAとは、特定の国や地域との間で、関税の撤廃や知的財産の保護などを約束し、より自由な貿易を目指すルールのことです。これまで日本のEPAカバー率は約37%に留まっていましたが、この日米協定が加わることで一気に約52%へと跳ね上がります。
食卓への恩恵と製造業へのメリット
具体的なメリットを見ていきましょう。米国から輸入される牛肉の関税は、現在の38.5%から段階的に引き下げられ、最終的には9%まで下がります。また、15%程度の関税がかかっていた米国産ワインも、発効から7年目には完全撤廃される見通しです。これらは消費者にとって、高品質な米国産食材をより手頃な価格で楽しめる素晴らしいニュースといえるでしょう。
産業面においても、米国側はエアコン部品や燃料電池、メガネといった製品にかかる関税を2020年01月01日の発効と同時に即時撤廃します。さらに、日本の得意分野である工作機械のマシニングセンターへの関税も2年目にはゼロになる予定です。これにより、日本企業の米国市場における競争力が一層高まることが期待されています。
しかし、楽観視できない課題も残っています。日本が最も重視している自動車およびその部品の関税撤廃については、今回の協定では結論が出ず、今後の継続協議という「宿題」になったからです。安倍晋三首相は国会で「さらなる交渉による撤廃を明記した」と強調していますが、具体的な時期が見えない点は日本の産業界にとって懸念材料です。
グローバルな貿易競争と日本の立ち位置
日本のEPAカバー率が52%に達したことは、中国の約38%やEUの約36%(2019年03月時点)を上回る成果です。茂木敏充外相は、TPPや日欧EPAと合わせれば「世界経済の約6割をカバーする自由な経済圏が誕生する」と自信を見せています。保護主義的な動きが世界で強まる中、日本が自由貿易の旗振り役として存在感を示しているのは確かです。
今後は、まだ協定を結んでいない中国や韓国との交渉が焦点となります。現在は日中韓の枠組みや、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)といった広域的な枠組みでの交渉が最終段階に入っています。これらの交渉がまとまれば、日本企業のビジネスチャンスはさらにアジア全域へと広がっていくことになるでしょう。
私個人の見解としては、協定を結ぶこと自体は歓迎すべきですが、それを「どう使いこなすか」が今後の鍵を握ると考えています。実は、関税優遇を受けるための「原産地証明」などの手続きは非常に煩雑で、多くの中小企業がこの恩恵を十分に享受できていない現実があります。政府は協定を結ぶだけでなく、現場の企業が活用しやすい環境整備にもっと注力すべきです。
2020年11月には米大統領選が控えており、第2弾の本格交渉はその後に持ち越されるとの見方が有力です。為替問題や通信・金融分野の開放など、米国側からのさらなる要求も予想されます。日本は「食」のメリットを享受しつつ、攻めの姿勢で自動車関税の撤廃を勝ち取らなければなりません。真の自由貿易の恩恵を実感できるのは、まだ少し先になりそうです。
コメント