世界最高峰の学び舎、米ハーバード・ビジネススクールで、教育の根幹を揺るがす興味深い変化が起きています。同校では、成績上位5%の超エリートに「ベイカー・スカラー」という称号を与えていますが、かつては大きな矛盾を抱えていました。MBA取得を目指す女子学生の割合が4割を超えていたにもかかわらず、最優秀賞に輝く女性はわずか2割程度にとどまっていたのです。同じ難関を突破して入学したはずの男女の間で、なぜこれほどの結果の差が生まれてしまったのでしょうか。
その決定的な要因は、ハーバード特有の評価制度に隠されていました。成績の50%が「クラスでのディスカッション」によって決まる仕組みなのですが、ここでの振る舞いに男女の差が明確に表れたのです。男性が迷わず高々と手を挙げ、物怖じせずに意見をぶつける一方で、女性はどこか控えめに構えてしまう傾向がありました。SNS上でも「実力はあるのに、声の大きい人に場を支配されてしまう」といった、現代の職場環境にも通じる悩みが多く寄せられ、注目を集めています。
機会平等のカギは「発言の偏り」を正すことにあり
この現状を重く見た大学側は、教授陣に対し、意識的に男女の発言機会を平等にするよう働きかけました。すると、驚くべきことにベイカー・スカラーの男女比率は劇的に改善し、2018年にはついに男女間の成績格差が完全に消滅したのです。これは単なる個人の能力差ではなく、コミュニケーションスタイルの違いに配慮することが、いかに真の「機会平等」に直結するかを物語る象徴的な出来事といえるでしょう。
OECD(経済協力開発機構)東京センター所長の村上由美子氏も、自身のニューヨークの投資銀行時代を振り返り、同様の構造を指摘しています。ボーナス査定の時期、自分の功績を猛烈にアピールしに来るのは決まって男性部下ばかりでした。一方で、女性は「自分の頑張りは上司がきっと見てくれているはずだ」と信じ、交渉の場に現れることは稀だったといいます。評価する立場になって初めて、上司に入ってくる情報の質と量には、大きな偏りがあることに気づかされるのです。
OECDの調査によれば、女子学生は男子学生よりも宿題に多くの時間を割くなど、準備を周到に整える特性があります。それに対し、自己肯定力(自分を価値ある存在だと認める感覚)は、往々にして男性の方が高い傾向にあります。日本でも女性登用が進んでいますが、ただ席を設けるだけでは不十分です。会議の司会者が意識的に女性へ話を振ったり、効果的なプレゼンのコーチングを行ったりと、背中を押し、議論への参加を促す工夫こそが今の組織には求められています。
私は、この「発信スタイルの差」を理解することは、女性だけでなくすべての控えめな才能を救う鍵になると考えます。声の大きさではなく、その発言の本質を見極める仕組みが整えば、企業や社会の意思決定はより豊かになるはずです。2019年12月2日、村上氏が提言したこの「ダイバーシティ進化論」は、私たちが無意識に陥っている評価のバイアス(偏見)を打破し、多様な能力を開花させるための重要な指針となってくれるでしょう。
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