アジア通貨の「割安感」が鮮明に!ドル回帰の波と米利下げの行方が鍵

日本経済新聞社と日本経済研究センターが独自に推計した**「均衡為替レート」に基づき、2019年1月から3月までのドルに対する理論値と現在の実勢レートを比較したところ、対象とした全10通貨のうち、ユーロとタイバーツを除く8通貨が「割安」**な水準にあることが判明いたしました。この現象は、2018年末まで続いた米国の利上げによって、世界中の資金がより高い金利を求めてドルへと流出する「ドルへの資金回帰」という大きな流れを如実に映し出していると言えるでしょう。

均衡為替レートとは、貿易収支や物価水準、金利差といった経済の基本的な条件、すなわち**ファンダメンタルズ(基礎的条件)**から理論的に導き出される、その通貨の適正な価値を示すレートです。実際の市場価格がこの均衡レートから大きく乖離している場合、その通貨は本来の経済力に見合っていない「割高」または「割安」な状態にあると判断されます。現在、アジア通貨の多くが割安方向に傾いている状況は、今後の米国による利下げへの転換といった政策変更があれば、一気に押し上げられる可能性があることを示唆しているのです。

特に割安方向への乖離(かいり)が最も大きかったのは、韓国ウォンです。現在のウォン相場は、理論的な均衡レートをなんと7%近くも下回る水準で取引されています。これは、韓国経済の主軸である半導体産業をはじめとする輸出の不振が深刻で、2019年第1四半期にマイナス成長に陥るなど、経済状況への不安からマネーが急速に流出している現状を物語っています。輸出大国である韓国経済の苦境が、そのまま通貨の価値に反映されていると言えるでしょう。

また、インドネシアルピアも、実勢相場が均衡レートと比べて4%近く「割安」となっています。インドネシアでは経常赤字が慢性的に定着しており、経済のファンダメンタルズに対する不安が、投機的な売りの動きを招きやすい状況です。実際に2018年には、一時1ドル=1万5,000ルピア台という約20年ぶりの安値水準まで下落しました。当時の市場の反応は、均衡レートの下落傾向を加味しても「行き過ぎ」であったと、今回の推計結果は示唆しているのです。

過去に原油安局面で資源産業への影響が懸念されたマレーシアのリンギも、現在の理論値からは3%ほど下回る水準で推移しています。このように、アジアの新興国通貨が軒並み割安となっている背景には、2018年に米連邦準備理事会(FRB)が継続的に利上げを実施し、新興国から米国へ資金が吸い上げられる圧力がかかり続けたことが挙げられます。これは、新興国の金融市場にとって非常に厳しい逆風であったと言えるでしょう。

一方で、アジア通貨の中で唯一**「割高」という評価を得たのがタイバーツです。タイは、堅調な観光業などを主な柱として、安定した経常収支の黒字**基調を維持しており、またインフレ率も落ち着いています。そのため、均衡レートも安定した推移を見せており、その経済的な安定性が新興国への投資マネーを引き寄せてきたと考えられます。タイバーツの堅調さは、アジアにおける「優等生」としての地位を確立している証左と言えるでしょう。

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米国の金融政策がアジア通貨の運命を左右する

私見として、現在のアジア通貨の割安感は、経済のファンダメンタルズに加えて、国際的な金融情勢、特に米国の金融政策に過度に左右されていると捉えることができます。2019年の年明け以降、FRBが利上げの休止を決定したことで、新興国の間ではすでに利下げの動きが広がっています。もし米国が利下げに転換すれば、新興国通貨が急激に下落する不安は緩和されるでしょう。

しかし、一概に通貨高が良いわけではありません。もし新興国通貨が「割高」な状態になれば、その国の輸出競争力が削がれるという新たな課題が生じます。新興国政府や中央銀行は、通貨の急激な変動を抑えつつ、自国の経済状況に合わせた適切な金利水準を模索するという、非常に難しい舵取りを迫られることになるでしょう。

欧州通貨に目を向けると、英ポンドが均衡レートから6%の幅で「割安」な状態にあります。これは、英国の欧州連合(EU)からの離脱、いわゆるブレグジットをめぐる不確実性が払拭されず、市場の不安心理が晴れていないことが背景にあります。一方で、欧州統一通貨であるユーロは、均衡レート(1ユーロ=1.13ドル)近辺での推移が続いています。

トランプ米大統領は、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁が追加的な金融緩和を示唆したことに対して、「不公正」であると強く非難しました。しかし、今回の均衡レートの分析結果から判断する限りでは、ユーロ相場は適正水準に近いと言えるため、米大統領の批判は必ずしも正当な根拠に基づくものではない、と言えるでしょう。この一連の動きは、国際的な通貨の価値を巡る議論が、経済のファンダメンタルズだけでなく、政治的な思惑にも左右されている現状を示しています。

本記事の均衡為替レートの算出方法などの詳細な概要については、日本経済研究センターの公式サイトにて公開されている資料をご参照ください。2019年6月26日現在、割安感が目立つアジア通貨が、今後の米国の金融政策によってどのように動いていくのか、私たちはその動向を注意深く見守っていく必要がありそうです。

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