現在、日本国内では再生可能エネルギー、いわゆる「再エネ」をさらに普及させるため、費用の負担ルールをめぐる議論が非常に激しく紛糾しています。今回の議論の焦点となっているのは、私たちが使う電気を届けるための「送配電網」を維持するコストを、一体誰が負担すべきなのかという問題です。国の試算によれば、対象となる太陽光発電事業者への課金は2023年度からの10年間で、実に合計約6000億円にものぼる見込みとなっています。
インターネット上やSNSでも、この問題は「後出しじゃんけんで酷すぎる」「投資リスクが高すぎて今後の再エネ普及が遅れるのでは」と、大きな反響を呼んでいます。一方で、「国民の電気料金負担を抑えるためには、発電側も相応のコストを支払うべきだ」という冷静な意見も目立っています。このように、再エネの未来を左右する重大な局面として、多くのユーザーから注目を集めているのです。
議論の引き金となった「発電側基本料金」とは?
もめている原因は、政府が2023年度に導入を目指している「発電側基本料金」という制度の詳細にあります。これは、これまで電気を消費者に届ける小売事業者が「託送料金(電気を送る道のりの使用料)」として全額負担していた送配電設備の維持費を、発電事業者側にも一部負担してもらおうという仕組みです。負担の公平性を保ち、電力システム全体のコストを抑えることが、今回の見直しの狙いとされています。
2023年度の制度導入自体は、2019年9月に経済産業相直属の専門会合で決定していました。その際、国の補助制度であるFIT(固定価格買い取り制度)を利用する事業者については、コストを転嫁できないため、同等の金額を補填する「調整措置」が検討されるはずでした。FITとは、国が約束した価格で再エネを買い取る、事業者の投資を促すための重要な仕組みのことです。
高額買い取り期間の事業者が直面する危機
ところが、2012年7月から2015年6月までの「利潤配慮期間」に認定された太陽光発電事業者について、思わぬ方針が浮上しました。この期間は制度の開始当初で買い取り価格が高く設定されていたことを理由に、調整措置の対象から外すという案が2019年の夏に示されたのです。これに対し、当時の高い買い取り価格を信頼して日本の太陽光事業に参入した国内外の事業者からは、驚きと怒りの声が上がっています。
オリックスなどの大手企業や海外の投資家からは、「これほど酷い後出しのルール変更は見たことがない」といった憤りの声が漏れています。さらに、カナディアン・ソーラー・アセットマネジメントの中村哲也社長も、予定していた利益が遡って奪われるような変更には納得できず、将来の投資が難しくなると危機感を募らせています。最悪の場合、国際条約に基づく国との仲裁裁判に発展する可能性すら指摘されている状況です。
スペインの失敗に学ぶ、透明性のある制度づくりの重要性
実は、再エネの制度変更によるトラブルは日本特有のものではありません。過去にスペイン政府が2010年に同様の制度変更を行った際、海外の事業者から30件以上の仲裁を申し立てられた前例があります。日本の資源エネルギー庁は、スペインの件は買い取り価格そのものを引き下げた直接的な不利益変更であり、日本のようにコストが上昇して間接的に利益が減るケースとは異なると主張していますが、事業者側の不信感は拭えていません。
国は不満を抑えるため、2019年12月17日の会合で、小売事業者と発電事業者が交渉して新たな取引価格を決めるという新提案を行いました。しかし、交渉力の弱い中小事業者が損をするのではないかという懸念もあり、議論の結論が出るかは不透明です。政府は当初、高い収益モデルを提示して国内外の投資を呼び込みましたが、後から不利なルールに変えることが繰り返されれば、再エネの普及そのものが遠のいてしまいます。
編集部EYE:目先の負担押し付け合いではなく、未来を見据えた対話を
筆者は、今回の対立の本質が「目先のコストの押し付け合い」になってしまっている点に強い危機感を抱いています。地球温暖化対策として再エネへの転換は急務であり、国民負担の軽減ももちろん大切です。しかし、国が一度掲げたルールを後から事業者に不利な形で変更すれば、国内外の投資家からの信頼を失い、結果として日本の再エネ産業全体が停滞するという本末転倒な事態を招きかねません。
誰がどれだけの負担を背負うべきなのか、国民にも分かりやすい形で費用構造をオープンにし、透明性の高い持続可能な制度を再構築することが今まさに求められています。政府には、ただ議論を今年度内に着地させることだけを急ぐのではなく、参入した事業者が納得できる丁寧な説明と、未来の投資を冷え込ませないための真摯な対話を強く望みます。
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