実店舗のあり方が大きく変わる転換期がやってきました。シンガポール発の有力な新興企業「Trax(トラックス)」の最高経営責任者であるジョエル・バーエル氏が、2020年01月18日までに今後の小売業界の大胆な展望を語りました。同氏の見立てによると、2020年は世界中の小売店にとって、最先端のデジタル技術を導入することが生き残りの絶対条件になるということです。
Traxは、企業価値が10億ドルを超える未上場の新興企業、いわゆる「ユニコーン企業」として国際的な注目を集めています。シンガポール国内にわずか2社しか存在しないユニコーンの1社であり、スイスのネスレやアメリカのコカ・コーラといった、世界の名だたる巨大消費財メーカーを大口顧客として抱えているのが特徴です。ネット上では「あのネスレが頼る技術とは凄すぎる」と驚きの声が広がっています。
同社の最大の強みは、極めて高度な「画像認識技術」にあります。これは、カメラで撮影した画像からその特徴をコンピューターに自動で判別させるシステムのことです。これまでは商品の販売データを管理する「POSシステム」が主流でしたが、同社は店内の陳列棚を丸ごとデジタルデータとして可視化する手法を開発しました。これにより、商品の在庫切れや並び方を瞬時に把握することが可能になります。
バーエル氏によると、素材や色彩が多種多様な商品を正しく識別することは、人間の顔認識よりも遙かに難しい技術が必要だそうです。この課題をクリアするため、母国イスラエルのテルアビブに200名以上の専門技術者を擁して研究を重ねてきました。現在では毎月10億件もの商品データを解析しており、SNS上でも「棚の写真を撮るだけで在庫管理ができるなんて夢のよう」と大きな反響を呼んでいます。
2020年における同社の重要戦略は、商品を卸すメーカーだけでなく、実際に商品を販売する小売店へのアプローチを強めることです。その切り札として、買い物客が目当ての商品を簡単に見つけられる案内アプリの提供を開始しました。ユーザーがスマートフォンで欲しいものを入力すれば、店内のどの棚にあるかが即座に分かります。膨大な商品データを学習したAIは、もはや他社が真似できない領域に達していると言えるでしょう。
ネットと実店舗の融合がもたらす逆襲のシナリオ
アジア圏でもインターネット通販が急速に拡大しており、旧来型の実店舗はどこも厳しい苦戦を強いられています。しかし、Traxはこの逆境をまたとないビジネスチャンスと捉えているようです。バーエル氏は、実店舗とネットを境目なく融合させる「オムニチャネル」の潮流を指摘し、この2つの世界をシームレスに繋ぐ強力な技術基盤を、自社が先頭に立って提供していくという強い決意を示しました。
2019年は米ウィーワークの経営問題を発端に、新興企業への風当たりが強まった激動の1年でした。2020年に入ってからもインドの格安ホテルチェーン「OYO」で大規模な人員削減が行われるなど、冷ややかな視線が注がれています。それでも同氏は「投資家がビジネスモデルを厳しく精査するようになったのは、むしろ優良企業にとって追い風である」と、極めて強気な姿勢を崩していません。
その自信を証明するように、同社は2021年半ばごろまでにアメリカの証券取引所へ上場する具体的な計画を進めています。最大の市場であり、最先端IT企業の価値をどこよりも高く評価してくれる米国を選ぶのは、非常に合理的な判断です。画期的な技術を武器に逆風を跳ね返す同社の挑戦は、デジタル時代の店舗経営において、新たなスタンダードを確立していくに違いないと確信しています。
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