お正月のおせち料理や特別な日の食卓を華やかに彩るイクラは、まさに「赤い宝石」と呼ぶにふさわしい存在ですね。そのイクラの価格に、今、驚きの変化が起きています。水産資源の減少により、主原料となる秋サケが40年ぶりという歴史的な大不漁に見舞われているにもかかわらず、店頭での販売価格が一転して値下がりしているのです。この不思議な現象の背景には、私たちの食生活や流通の現場における切実なドラマが隠されていました。
2019年12月中旬の東京都内のデパ地下では、年末年始に向けた食材フェアが活気を見せていました。そこで並ぶ北海道産のイクラの価格は、100グラムあたり900円から980円前後と、前年に比べて1割から2割ほど安くなっています。実は2017年冬には、サケの深刻な不漁によって卸値が1キログラムあたり1万円を突破する事態となりました。当時は「バブル期以来の最高値」と騒がれ、店頭でも手が出せないほどの高値に達したのです。
SNS上でも当時は「高すぎて手が出ない」「お正月なのにイクラのない寂しい食卓になりそう」といった悲鳴のような声が数多く投稿されていました。しかし2019年末時点では、卸値が6500円から7000円へと大幅に下落しています。サケが捕れていないのに価格が下がるという、一見すると矛盾した現象が起きた最大の要因は、あまりの価格高騰によって、飲食店や一般の消費者がイクラから離れてしまったことにあります。
いくら大好物とはいえ、度を超えた高値が続けば買い控えたくなるのが消費者の心理でしょう。「いくら何でも高すぎる」という悲鳴を受け、スーパーや飲食店では、国産イクラからロシア産や北米産などの輸入物へ切り替える動きが一気に加速しました。さらに、サケの卵より一回り小さい「マスの卵」を代用品として活用する工夫も広がっています。かつては8割以上を占めていた国産イクラのシェアは、今や半分近くを輸入物に奪われる形となりました。
インターネット上では「最近お店で食べるイクラが少し小さくなった気がしていたけれど、こういう理由だったのか」と合点がいったような投稿も見られます。日本の伝統的な食文化が、海外産や代替品に支えられている現実は少し寂しい気もしますね。しかし、生活防衛のためには流通の工夫もやむを得ないと言えます。一方で、国内の漁業関係者は2019年初秋の段階で「今年は絶対に売り場を奪還する」と強い決意を表明していました。
事前の資源調査でも、2019年秋は日本に帰ってくるサケが3割ほど増えると予測されていたため、供給増加を見越して在庫価格が下がったという側面もあります。ところが、この期待は悲しくも裏切られる結果となりました。岩手県水産技術センターなどは、海水温が高すぎたためにサケが河口に近づきにくかった可能性を指摘しています。さらに、川から海へ旅立った稚魚が海洋環境の変化によって生き残れなかった懸念も浮上しているのです。
養殖サーモンでは補えないイクラの希少性と世界的な争奪戦
ここで一つの疑問が浮かびます。近年、日本各地で「ご当地サーモン」の養殖が盛んですが、それでイクラの不足を補うことはできないのでしょうか。結論から言うと、それは非常に困難です。なぜなら、養殖は「刺し身」などで美味しく食べられる生食用の身を育てることが目的だからです。魚は卵を抱くと、栄養や旨味がすべて卵に取られてしまい、身の品質が落ちてしまいます。そのため、産卵前に出荷するのが一般的なのです。
私たちが普段口にする養殖サーモンと、イクラを育む天然の秋サケは、全く別の役割を持った食材と言えます。一時的な在庫処分や輸入物の増加によって現在は値下がりしているイクラですが、豊洲の卸大手の間では「今後は再び値上がりへと転じるだろう」との見方が強まっています。国内の供給量が絶対的に不足していることに加え、海外からの輸入価格も上昇傾向にあるため、安値が長く続くとは考えにくい状況です。
さらに見逃せないのが、世界的な「和食ブーム」の影響です。タラコやカズノコを好む国は限られますが、イクラは欧米や中東、アジアでも「レッドキャビア」として大人気を誇ります。水産商社によれば、世界中で買い付け競争が激化しているとのことです。私たちは日本の秋サケ文化を守るためにも、環境変化への対策や、国産水産物を適正な価格で支える意識を持つ必要があるのではないでしょうか。今後の価格動向から目が離せません。
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