澁澤龍彦が愛した泉鏡花の耽美な世界——時を超えて蘇る幻のセレクション全4巻の魅力

1970年代前半、日本の文学界に大きな足跡を残した仏文学者の澁澤龍彦氏と、独文学者の種村季弘氏が共同で、幻想文学の巨匠・泉鏡花の選集を編むという壮大な計画を立てていました。当時、担当編集者の手元には候補となる作品リストが託されていましたが、残念ながらその企画は日の目を見ることなく幻のまま頓挫してしまったのです。

種村氏による選集は後に「ちくま文庫」から刊行されましたが、澁澤氏の視点で紡がれるはずだった選集は、長い間眠り続けていました。しかし、約半世紀という時を経て、ついにその夢が形となって結実しました。2019年から刊行が開始された全4巻の「泉鏡花セレクション」は、読書家たちの熱い視線を集めています。

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五感を刺激する、こだわりの造本技術

今回のセレクションで特に目を引くのは、その圧倒的な美しさです。各巻に付けられた「龍峰集」「銀燭集」といった美しいタイトルは、大正時代に日本画家の小村雪岱が装丁を手掛けた伝説的な「鏡花本」から引用されました。雪岱が描いた当時の装丁を、表紙や本扉、見返しに至るまで忠実に再現し、貼函(はりばこ)入りの贅沢な作りで仕上げられています。

「貼函」とは、厚紙の箱に和紙や布を貼って作られる高級感のある箱のことです。8800円(税別)という価格は書籍としては高価に思えるかもしれません。しかし、これは単なる読み物ではなく、国書刊行会が手掛けた、大正ロマンの香りを現代に伝える芸術作品なのです。所有する喜びを最大限に満たしてくれるはずです。

SNS上でも「憧れの鏡花本が蘇った」「函から出した時の質感がたまらない」と、熱狂的なファンから歓喜の声が上がっています。まさに、デジタル時代だからこそ手元に置きたい「美しい本」の体現と言えるでしょう。

私自身、澁澤龍彦氏の鋭い審美眼を通して再構成された泉鏡花の作品には、現代の文学にはない凄艶な妖しさを感じずにはいられません。鏡花の描く幻想世界が、雪岱の意匠と相まってどのような化学反応を起こしているのか。読者はページをめくるたび、時空を超えた幽玄な旅に出かけることができるでしょう。

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