華やかな船旅を楽しむはずの巨大な豪華客船が、今、洋上で孤立するという異例の事態に直面しています。世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスによる肺炎の影響により、日本や中国周辺を航行する大型クルーズ船の運航スケジュールが次々と破綻しているのです。横浜港に到着した船内で大規模な集団感染が確認されたことをきっかけに、アジア各国では感染拡大への警戒感が一気に高まりました。その結果、周辺の国や地域で入港を拒否する動きがドミノ倒しのように広がっています。
データ分析によると、2020年1月以降に中国へ寄港した実績のある大型クルーズ船21隻はすべて、アジアやオセアニア地域に足止めされている状態です。驚くべきことに、そのうち複数の船は次に目指すべき港すら決まっていません。寄港を予定していた国から拒絶され、次の候補地でも受け入れを断られるという、まさに「洋上の迷子」とも言える深刻な状況が発生しています。SNS上でも「乗客の不安を考えると胸が痛む」「一刻も早く安全な港が見つかってほしい」といった、悲痛な声や心配する反応が数多く寄せられました。
特に象徴的な動きを見せているのが、米国のホーランド・アメリカ・ラインが運航する「ウエステルダム」です。乗客乗員あわせて約2700人を乗せた同船は、2020年2月1日に香港を出発しました。台湾を経由した後、2020年2月6日午後には沖縄県の石垣港まで残り約100キロメートルの地点に接近しています。しかし、日本政府が新型肺炎の流入を防ぐために水際対策を強化し、入港を拒否したため島へ近づくことはできませんでした。当初は那覇港を目指す予定でしたが、太平洋を南下するルートへと進路を変更しています。
ここで注目したいのは、各船舶の動きを正確に捉える技術です。今回の分析には、船舶が発信する「AIS(自動識別装置)」などの位置情報配信サービスが活用されました。これは衝突防止のために船舶の責任者や位置、針路をリアルタイムで電波送信するシステムです。この地理情報システムによる航跡データからは、イタリアの「コスタ・セレーナ」など複数の客船が東シナ海で立ち往生している緊迫した様子が浮かび上がります。また別の船はベトナム沖で急旋回した末、ようやくタイの港に滑り込むなど、混迷を極めている状況です。
日本政府は2020年2月7日、ウエステルダムに対して正式に入港を認めない方針を示しました。赤羽一嘉国土交通大臣は同日の会見で、船側からスケジュールを白紙に戻して次の目的地を再検討するとの連絡が入ったことを明かしています。こうした厳しい対応は日本だけに留まりません。台湾や韓国、フィリピンやベトナムなどの周辺当局も、事実上の受け入れ拒否へと舵を切りました。多くの命を乗せた船が、どこにも降りられないまま海をさまよう姿には、国際的な人道支援の観点からも大きな議論を呼びそうです。
クルーズ船は数千人もの人々が長期間にわたって閉鎖された空間、いわば「動く街」のような環境を共有して旅を続けます。そのため、一度ウイルスが侵入すると感染が爆発的に広がりやすいという脆弱性を持っています。水際での防御を最優先したい各国の言い分は理解できますが、乗客乗員の健康状態や物資の補給を考慮すると、ただ拒絶し続けるだけでは根本的な解決にはなりません。国際社会が連携し、隔離や検疫(感染症の有無を調べる検査)を安全に行える共通のルールや受け入れ態勢を早急に構築することが、今まさに求められていると言えるでしょう。
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