2019年10月12日に日本を襲った台風19号は、長野県内をはじめ各地に甚大な爪痕を残しました。あの未曾有の大水害から数ヶ月、国と長野県、そして流域の各自治体が一致団結し、命を守るための具体的なロードマップである「信濃川水系緊急治水対策プロジェクト」が2020年2月に策定されました。SNS上でも「二度とあの悲劇を繰り返してほしくない」「一刻も早い対策を」といった切実な声が溢れており、住民の関心は最高潮に達しています。
今回の計画が目指すゴールは非常に明確です。大規模な浸水に見舞われたエリアを対象に、2024年度までに越水(えっすい)による家屋の浸水を防止し、さらに2027年度までには千曲川流域全体の住まいを洪水から守り抜くという、スピード感を持った2段階の計画が掲げられました。越水とは、激しい雨によって川の水位が上昇し、堤防を越えて外へ溢れ出てしまう危険な現象を指します。国が投じる予算は1227億円という巨額なもので、まさに総力戦の様相を呈していると言えるでしょう。
治水の要となる「遊水池」と「河道掘削」の仕組み
この巨大プロジェクトを支える2大看板が、千曲川流域では初導入となる「遊水池(ゆうすいち)」の整備と、大規模な「河道掘削(かどうくっさく)」です。遊水池とは、大雨で川が氾濫しそうになった際、下流の街を守るためにあらかじめ決めておいた特定の土地にわざと水を導いて一時的に溜めておくスペースを言います。堤防の一部を意図的に低く設計し、水位が上がると自然に水が流れ込む仕組みになっており、ピークが過ぎれば安全に排水されます。
計画では佐久市、千曲市から長野市南部、長野市東北部から中野市および飯山市、そして安曇野市の4つのエリアにこの仕組みを配置する予定です。一方の河道掘削は、川底の砂利を削り取ったり川幅を広げたりすることで、一度に流せる水の体積(流量)を増やす工事を指します。特に川幅が急激に狭くなり、ボトルの首のように流れが滞る原因となっていた中野市立ケ花地区や飯山市戸狩地区などが重点的な対象として選ばれました。
立ちはだかる高い壁とこれからの街づくり
地元の悲願だった治水対策が前進する一方で、実現までには一筋縄ではいかない課題も潜んでいます。遊水池を造るには膨大な私有地の買収や、増水時に水没することへの地権者の同意が不可欠であり、丁寧な話し合いには多くの時間を要するはずです。また、上流で河道掘削を行って水の流れをスムーズにしすぎると、今度は下流に一気に水が押し寄せて新たな決壊を招くリスクが生まれてしまいます。
専門家からは、広大な土地の確保が難しく小規模な池に留まれば、十分な効果を発揮できない可能性も指摘されています。だからこそ、このプロジェクトは川の工事だけで終わりません。田んぼを一時的なダムとして活用する雨水貯留や、そもそも災害リスクの低い安全な土地へ住まいを移す仕組みなど、なんと35項目ものメニューが盛り込まれました。これからは「川を守る」という狭い視点ではなく、都市計画そのものを水害に強い構造へ変える「総合的な街づくり」へと舵を切るべきだと私は確信しています。
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