還暦からの挑戦!JR九州の唐池恒二会長が語る「簿記3級」合格記と帳簿の世界史

日々のビジネスを支える数字の仕組みに、皆さんはどれくらい関心があるでしょうか。企業の経営トップとして長年手腕を振るってきたJR九州の唐池恒二会長が、なんと還暦を過ぎてから商工会議所主催の簿記検定試験3級に挑戦し、見事に合格を果たしました。この驚きのニュースはSNS上でも瞬く間に話題となり、「いくつになっても学ぶ姿勢が素晴らしい」「経営トップ自らが基礎に立ち返る姿に背中を押された」といった、感動と称賛の声が数多く寄せられています。

唐池恒二会長が試験に挑んだのは、2017年のことでした。約20年間にわたり熱心に企業経営の舵取りを行ってきたため、完成された決算書などの財務諸表を分析し、理解する能力はすでに十分備わっていました。しかし、その書類が作られる前段階である、取引を細かく記録する「仕訳」や、それを帳簿に書き写す「転記」といった、会計の根本的なプロセスについては詳しく知らなかったそうです。社長を退任して時間ができたことを機に、一念発起して勉強を始めました。

ここで、唐池恒二会長を突き動かした「簿記」という専門知識について、少し紐解いてみましょう。簿記、なかでも一般的に使われる「複式簿記」とは、1つの取引を「原因」と「結果」という2つの側面から捉えて記録する画期的な仕組みです。これにより、お金の出入りだけでなく、企業の財産が今どのような状態にあるのかを正確に把握できます。まさに企業の健康状態を映し出す、ビジネスパーソンにとって必須の共通言語と言えるでしょう。

この仕組みの歴史は非常に深く、14世紀にイタリアの商業国家であるジェノヴァ共和国の商人たちが、貸し借りなどの債権債務を記録したことが始まりとされています。歴史家ジェイコブ・ソール氏の有名な著書「帳簿の世界史」でも詳しく解説されており、700年を超える簿記の歩みは、そのまま企業経営の歴史そのものであると説かれています。唐池恒二会長も、経営の本質をより深く突き詰めるために、この歴史ある知恵を基礎から学び直したいと考えたのでしょう。

2017年の試験当日、会場に到着した唐池恒二会長を待っていたのは、予想以上の大混雑でした。最寄り駅のホームから会場の大学まで長蛇の列ができており、受験生のほとんどが20代の若者や制服姿の高校生だったそうです。周囲からは間違いなく試験監督や大学の教員だと思われていたはずですが、指定された席に座ることで、自身が簿記の入門編である3級のチャレンジャーであることが周囲に伝わる、少し気恥ずかしい瞬間を味わうことになります。

インフルエンザが流行する時期だったため、年齢を少しでも隠そうとマスクを着用して臨んだ唐池恒二会長。しかし、試験監督の職員が問題用紙を配る際、目の前で小声で「ご苦労様です」と丁寧に頭を下げられてしまい、正体がばれていたというユーモラスな一幕もありました。それでも集中力を切らさず挑んだ結果、ご自身の年齢を少し上回る素晴らしい点数で見事に合格を掴み取り、「ようやくジェノヴァの商人に追いついた」と喜びを噛み締めています。

長年トップに君臨した人物が、若い世代に混ざって基礎に挑む。この姿勢こそが、JR九州を牽引してきたバイタリティの源泉なのでしょう。学び始めることに遅すぎるということは決してありません。完成した数字を見るだけでなく、その成り立ちを知ることで、いつものビジネスの景色がガラリと変わるはずです。この記事に触れた今が、新しい知識の扉を叩く絶好のチャンスかもしれません。皆さんも、歴史を紡ぐ大人の学びに一歩を踏み出してみませんか。

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