2019年05月31日、東京都内で開催された国際交流会議「アジアの未来」において、オーストラリアのマルコム・ターンブル前首相が登壇し、熱のこもった講演を行いました。世界経済が混迷を深める中、彼が発した鋭いメッセージに会場の注目が集まっています。特に話題となったのは、トランプ米政権が発表したばかりのメキシコに対する追加関税措置への言及でした。不法移民対策という、本来は安全保障や内政の課題解決のために関税という経済的な武器を使用することに対し、ターンブル氏は「歓迎できない」と明確な懸念を表明したのです。
このニュースに対し、ネット上のSNSでは早くも多くの反響が寄せられています。「経済と安保を混同するのは危険だという指摘はもっともだ」「トランプ大統領のやり方に真っ向から苦言を呈せる政治家は貴重だ」といった賛同の声に加え、米中の板挟みになるアジア諸国の現状を憂う意見も散見されました。世界的なリーダーであった人物の言葉だけに、その重みが多くの人々に響いているようです。
「低成長のワナ」と保護主義への警告
講演の中で特に印象的だったのは、各国で台頭しつつある「保護主義」に対する痛烈な比喩でした。保護主義とは、自国の産業を守るために輸入品に関税をかけたり、輸入量を制限したりする政策のことですが、ターンブル氏はこれを「低成長のワナから脱出するはしごではない。より深みに落ちるシャベルだ」と表現しました。自国の利益を守ろうとして壁を作れば作るほど、逆に経済の停滞という穴を深く掘り進めてしまうというこの警告は、非常に示唆に富んでいます。
また、激化する米中貿易戦争についても、決して他人事ではないと警鐘を鳴らしました。アメリカと中国の対立は、当事国だけでなく、日本やオーストラリアを含むあらゆる国に悪影響を及ぼすと指摘しています。サプライチェーンが複雑に絡み合った現代経済において、大国同士の争いは世界全体の経済成長を阻害する要因になりかねません。だからこそ、アジア各国が自信を持ってリーダーシップを発揮し、持続的な成長を牽引すべきだと訴えたのです。
「シンゾウ」との絆とTPPの成果
厳しい国際情勢への懸念の一方で、会場が温かい空気に包まれた瞬間もありました。それは、ターンブル氏が日本の安倍晋三首相との連携について語った場面です。オーストラリアは日本と共に、11カ国による環太平洋経済連携協定(TPP)を主導してきました。TPPとは、太平洋を取り囲む国々で関税を撤廃し、自由な貿易圏を作ろうという巨大な経済協定です。
ターンブル氏は「シンゾウと一緒にTPPをよみがえらせたことは、私の最大の成果の一つだ」と胸を張りました。アメリカがTPPから離脱した後、漂流しかけたこの協定を日本とオーストラリアがタッグを組んでまとめ上げたことは、自由貿易体制を守る上での大きな功績と言えるでしょう。「シンゾウ」とファーストネームで呼ぶその姿からは、日豪間の強固な信頼関係と、共に困難を乗り越えた同志としての絆が感じられました。
編集者としての私見ですが、目先の利益を追求する保護主義的な動きが強まる今だからこそ、ターンブル氏の言葉は重く響きます。関税を政治的な交渉カードとして乱用することは、長期的には誰の得にもなりません。自由貿易こそが繁栄の礎であるという原点に立ち返り、アジア諸国が結束して開かれた経済圏を維持していくことが、これからの世界経済にとって不可欠なのだと強く感じさせられます。
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