ハイブリッド車や電気自動車の心臓部ともいえるモーター。その性能を左右する高性能磁石の欠かせない材料として知られるのが「レアアース(希土類)」です。2019年に入り、米中貿易摩擦が激化の一途をたどる中で、この希少な資源を巡る国際情勢が緊迫の度合いを強めてきました。最大生産国である中国が、米国への対抗手段として輸出規制を示唆したことで、供給不安を感じ取った投資家たちによる投機的な買いが殺到し、市場価格は一気に跳ね上がったのです。
この「レアアース」とは、化学的に似た性質を持つ17種類の元素の総称であり、強力な磁力を生み出すネオジムや、熱への耐性を高めるジスプロシウムなどが代表格です。スマホから電気自動車まで現代のハイテク製品には不可欠な存在であるため、その供給網が脅かされることは世界経済にとって大きなリスクとなります。SNS上でも「かつてのレアアース・ショック再来か」と懸念する声が相次ぎ、一時はパニックに近い買い注文が市場を席巻したことは記憶に新しいでしょう。
2019年5月20日、中国の習近平国家主席がレアアース工場を視察し「戦略資源」としての重要性を強調したことで、事態はさらに熱を帯びました。これをきっかけに、モーター磁石の主役であるネオジムの価格は、6月中旬には1キロあたり66.5ドル前後にまで急騰し、わずか数ヶ月で3割以上も値を上げる事態となったのです。同様にジスプロシウムも年初から6割近い上昇を見せ、製造現場や投資家の間では「どこまで高騰が続くのか」という不安が広がりました。
しかし、2019年6月下旬に開催された米中首脳会談において、制裁の「第4弾」が当面先送りされることが決まると、相場の過熱感は一気に収束へと向かいます。両国の対立が「一時休戦」の形をとったことで、思惑だけで膨らんでいた買い注文が影を潜めました。専門家の間でも、実際に中国が禁輸措置に踏み切る可能性については懐疑的な意見が目立っています。なぜなら、極端な輸出制限は、米国に自国生産の再開や他国からの調達ルート開拓を促す結果を招くからです。
現在、米国のレアアース輸入の約7割を中国が占めていますが、中国側がこの「外交カード」を切りすぎることは、自らの市場支配力を弱める諸刃の剣にもなり得ます。他国での代替生産が進めば、中国自身の首を絞めることになりかねないため、今回の相場上昇はあくまで短期的な現象に留まるとの見方が有力でしょう。私個人の見解としても、資源を政治の道具にする手法は一時的な効果こそあれ、長期的には代替技術の開発を加速させるだけであり、今回の沈静化は必然の流れだと感じています。
投資の世界では、恐怖や期待といった感情が実需以上に価格を押し上げることが多々ありますが、今回のレアアース騒動はその典型例といえるかもしれません。中国は新たな輸出管理システムの検討を開始したと報じられていますが、実効性については未知数な部分が多いのが現状です。不透明な情勢は今後も続くでしょうが、2019年7月現在の状況を見る限り、ひとまず市場は冷静さを取り戻しており、急激な価格高騰が続くシナリオは回避されたと言えそうです。
コメント