2019年6月25日の米株式市場は、ダウ工業株30種平均が反落する結果となりました。この背景には、パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の発言が大きく影響しています。同議長は、米中間の貿易摩擦などに起因する経済の不確実性が、いわゆる「利下げ」の根拠となり得るかどうかを精査していると述べたため、市場では年内の早期利下げへの期待が一旦後退したかたちです。最高値を目前にしながら、米株が足踏みを続けるなか、ウォール街では、代表的な「仮想通貨」(暗号資産とも呼ばれます)であるビットコインの急上昇と、ITの巨人、米フェイスブックが発表したデジタル通貨「リブラ」への注目が熱を帯びています。
情報サイトのコインデスクによると、ビットコインは6月25日朝方に一時1万1437ドルまで高騰し、これは約1年3カ月ぶりの高値水準に達しました。このビットコイン価格の急騰を後押ししているのは、フェイスブックが6月18日に「リブラ」の構想概要を公表したことです。世界的な影響力を持つフェイスブックがデジタル通貨分野に参入することで、仮想通貨全体の普及が加速するのではないか、という観測が市場で広がっているからでしょう。しかし、当のフェイスブックの株価は、リブラ発表直後の6月18日に一時194ドル53セントと5月初旬以来の高値をつけたものの、その後は188ドル台まで値を戻すなど、伸び悩んでいる状況が見受けられます。
リブラは、米ドルをはじめとする複数の「法定通貨」にその価格が裏付けされているステーブルコインと呼ばれるタイプのデジタル通貨です。この仕組みによって、価格の急激な変動が抑えられ、従来の仮想通貨よりも安定した価値を持つことが期待されています。リブラは、個人間の送金や商品の支払いなどに利用でき、フェイスブックが提供する対話アプリ「ワッツアップ」や「メッセンジャー」といった巨大なユーザー基盤上で展開される計画です。現在、収益の約99%を広告収入に依存しているフェイスブックにとって、リブラを通じた金融サービスへの本格参入は、収益源の多様化という経営戦略上の大きな目標があると考えられます。
シティグループのアナリストであるマーク・メイ氏らは、リブラに対して非常に肯定的で、「今後数年で、フェイスブックに新たな製品や収益をもたらす可能性がある」と期待感を示しています。一方で、米調査会社モーニングスターのアリ・モガラビ氏らは、導入初期段階においては、リブラの利用が個人間決済のような無料サービスが中心になるだろうと指摘しています。そのため、リブラが今後数年間でフェイスブックの「売上高や純利益に有意義な貢献をもたらすとは見ていない」という慎重な見解であり、規制環境や明確な収益化の道筋が確立されるまで、投資家は様子を見るべきだと勧告しているのです。
規制当局の厳しい視線とリブラ計画の行方
フェイスブックにとって、現時点における最大の障壁は、各国の規制当局との関係です。米国では、上院銀行委員会が7月16日、下院金融サービス委員会が7月17日に、それぞれリブラに関する公聴会を開催する予定となっており、当局の関心度の高さがうかがえます。特に、下院金融サービス委員会のマクシーン・ウオーターズ委員長は、米CNBCのインタビューで、リブラは、必要な法的手続きを経ずに「銀行を始めるようなもの」だと強い懸念を表明しました。さらには、フェイスブックに対し、リブラの計画を直ちに停止するよう警告するに至っています。
フェイスブックは、以前からソーシャルメディア上での個人情報の取り扱いを巡って世界的な批判の的となり、これが各国の規制強化論を加速させるきっかけを作ってしまいました。こうした過去の経緯があるため、リブラが目指す「発展途上国など、金融サービスへのアクセスが限られている人々が、低コストで気軽に送金や取引を行える環境」という高邁な目標が、素直に受け入れられない状況があるのです。リブラの普及の鍵は、利用者がこの新しいデジタル通貨に対して、どれほどの「信頼」を置くことができるかにかかっています。この信頼は、フェイスブック自身が、これまで抱えてきたプライバシー問題や信頼性の懸念をどれだけ克服できるかに直結しています。
シティグループのメイ氏らは、リブラの成否こそが、フェイスブックが「自社の信頼性に対する懸念をどれだけ克服することができたか、または克服することができるのかについて重要なテストになる」と分析しています。国際通貨の発行にも匹敵するこの意欲的な試みが、フェイスブックにとって新たな成長の機会となるのか、それとも新たな規制と批判の火種となるのか。この巨大なIT企業が打ち出した未来の金融構想の行方について、世界の投資家たちは引き続き注視していくことになるでしょう。リブラは、まさにフェイスブックの未来を占う試金石となる、重要な挑戦だと言えるのです。
コメント