2020年春季労使交渉が本格化する中、日本の労働環境に大きな変革の波が押し寄せています。日本労働組合総連合会(連合)の神津里季生会長は、基本給を一律に引き上げる「ベースアップ(ベア)」の2%程度という要求に加え、新たな戦略を打ち出しました。それは、労使間で合意を形成する「企業内最低賃金」について、時給1100円以上という具体的な数値目標を初めて設定したことです。この大胆な方針は、SNS上でも「中小企業の応援になる」「非正規雇用の救いになってほしい」と大きな注目を集めています。
この施策の背景には、深刻化する格差問題があります。デフレ(物価が持続的に下落し、経済が停滞する現象)が続いた過去20年間で、大企業と中小企業の格差は広がる一方でした。神津会長は、経団連が示した方針は大企業の視点に偏っており、日本全体が抱える危機感が欠如していると厳しく指摘します。一部の企業だけでなく、社会全体で賃金水準を底上げしなければ、日本が長期にわたるデフレ傾向から完全に脱却することは極めて困難であるといえるでしょう。
世界の潮流から取り残される日本の賃金水準
日本の労働者が置かれている現状は、国際的な視点で見るとさらに深刻さが浮き彫りになります。米国では過去20年間で名目ベースの賃金水準が2倍に上昇し、欧州連合(EU)の先進国でも約1.6倍に成長しました。これに対して、日本は0.9倍と逆に1割も低下しているのが冷酷な現実です。給与が上がらない状態で人口減少が進行すれば、国内市場が縮小し、国力が衰退していくのは自明の理です。この悪循環を断ち切るために、今回の交渉は非常に重要な意味を持っています。
一方で、経団連は成果に応じた配分を行う「脱一律」の交渉を求めています。これに対し連合側は、2%の要求はあくまで目安であり、実際の配分方法は各企業の労使が納得のいく形で決めるべきだという柔軟な姿勢を示しました。一律の基準を設けつつも、現場の実情に即した議論を尊重する構えです。編集部としては、単なる数字の押し付け合いではなく、個々の企業の持続可能性を考慮した建設的な対話が今こそ求められていると考えます。
日本型雇用の変革とジョブ型雇用の是非
昨今注目を集める「ジョブ型雇用(職務内容や必要なスキルを明確に定義して契約する雇用形態)」の導入についても、議論が白熱しています。大企業では従来の年功序列や手厚い育成制度が機能してきた反面、日本の雇用の9割以上を占める中小企業や、全体の4割に達する非正規労働者の間では、こうした日本型雇用制度そのものが崩壊しているケースも少なくありません。そのため、雇用制度の根本的な見直しを求める声がSNSでも上がっています。
しかし、神津会長はすべての社員をジョブ型に移行することには慎重な姿勢を崩していません。職務を限定しすぎると、企業が長期的な視点で人材を育てるという、日本型雇用が持つ最大の強みが失われるリスクがあるためです。外部から高度な専門人材を招き入れる施策には賛成しつつも、社内のバランスを見極めるメリハリが肝要であると主張します。伝統の維持と革新の融合こそが、これからの日本企業が生き残るための鍵になるのではないでしょうか。
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