2019年6月13日時点で、日本の衣料品業界では過剰在庫、すなわち売れ残りの問題が深刻化しています。なんと流通する商品の約半分が最終的に売れ残ってしまうという驚きの実態が明らかになっているのです。この大量の売れ残りは、ブランドの価値を損なうだけでなく、環境負荷の観点からも大きな課題として認識されてきました。しかし、この長年の課題に対し、業界大手が本格的にメスを入れ始め、新しいビジネスモデルへの転換を急いでいる状況です。
これまで、アパレル業界では、家電量販店やドラッグストアで一般化しているダイナミックプライシング(需要と供給の状況に応じて価格を機動的に変動させる仕組み)の導入は遅れていました。それは、競合他社と同一の商品を扱うことが稀で、商品の販売期間も比較的長いため、価格を柔軟に変える必要性が薄かったためです。しかし、この在庫の山を解消し、より利益を重視する経営へと舵を切るため、カジュアル衣料の大手企業が、在庫を増やさないための仕組み作りで先陣を切っています。
世界最大の衣料品企業であるインディテックス(スペイン)が展開する「ZARA(ザラ)」のビジネスモデルは、まさにその先駆例です。ZARAは、シーズン開始時に作成する商品の量を3週間程度分に限定し、店頭での顧客の反応を注意深く観察します。そのフィードバックを基に改良を加え、新製品を毎週2回という驚異的なスピードで店舗に送り込んでいます。これにより、市場のニーズに合わない商品を大量に作るリスクを極限まで抑え、常に新鮮で魅力的な商品を提供し続けることを可能にしているのです。
国内大手のユニクロを展開するファーストリテイリングも、在庫管理に独自の工夫を凝らしています。セール期間を1週間程度の短期間に限定し、期間終了後は速やかに定価販売に戻すという手法を採用しています。在庫の消化率を精査しながら、ディスカウントと定価販売を計画的に繰り返し実行することで、不要な過剰在庫の発生を防ぐ経営を徹底しているのです。これらの大手企業の取り組みは、「売上高至上主義」から「利益重視」へと、ファッション業界全体の意識が変わろうとしている明確な証と言えるでしょう。
AIが実現するスマートな在庫・値付け戦略
他の国内アパレル企業も、この「過剰生産の解消」という大きな流れに追随しています。例えば、ストライプインターナショナル(岡山市)は、2020年1月期の商品の仕入れ高を前期実績から約2割、金額にして350億円分も削減する大胆な計画を打ち出しました。この削減を支えるのが、人工知能(AI)を活用したデータ分析です。商品の発注量や値引きのタイミングといった重要決定にAIを導入することで、勘や経験に頼るのではなく、データに基づいた最適な判断を下せるようにしているのです。
このAI導入の効果は目覚ましいものです。主力ブランドで試験的にAIを取り入れたところ、2019年1月には前年同月と比較して値下げ幅を抑制することができ、その結果、企業の儲けを示す粗利益も約2倍に改善したという成功事例が報告されています。これはAIが、いつ、どれだけ、どの価格で売れるかを高精度で予測し、必要以上の値下げを回避できたことを示しています。
また、TSIホールディングスも、値引きを前提とした生産数量の決め方自体を見直す動きを見せています。同社もAI分析を活用し、店舗に投入すべき適切な商品量や、値引きに頼らずとも完売できる販売時期を割り出す取り組みを強化しています。現在、同社の定価販売率はブランドによって50%から70%の範囲にありますが、これを今後5年間で5ポイント引き上げることを目標としています。これは、単に在庫を減らすだけでなく、「正価で買っていただく」という、ブランドにとって最も理想的なビジネスの形を追求している表れと言えるでしょう。
私は、この「AI導入による在庫改革」こそが、ファッション業界が持続可能な成長を遂げるためのゲームチェンジャーになると確信しています。顧客のリアルな声や購買データを基にAIが導き出す発注量や値付けは、これまでの属人的な判断よりも遥かに精度が高く、利益率の向上に直結します。SNS上でも、「ZARAの売り切れと新入荷の速さがすごい」「ユニクロのセールが終わるとまた定価に戻るのが当たり前になった」といった声が見られ、消費者はすでに、この新しいビジネスの流れに適応し始めているようです。在庫の山が解消され、生産者も消費者も納得できる、より健全な市場が形成されていくことに期待が高まるばかりでしょう。
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