就職活動の必須ツールとして親しまれてきた「リクナビ」が、学生の「内定辞退率」を予測したデータを企業へ販売していたという驚きのニュースが世間を賑わせています。2019年12月04日、政府の個人情報保護委員会は、リクナビを運営するリクルートキャリアのみならず、そのデータを受け取っていた企業側に対しても異例の行政指導を行いました。
行政指導の理由は、学生に対してデータの利用目的を適切に明示しないまま、個人データをやり取りしていた行為が個人情報保護法に抵触する恐れがあるためです。SNSでは「自分の知らないところで勝手に合格可能性を数値化されていたのか」といった怒りや、「信じていた企業がこんなことをするなんて」という失望の声が次々と上がっています。
今回の騒動で何より痛手なのは、日本を代表する大手企業の名前が指導対象として挙がったことでしょう。たとえばトヨタ自動車のインターンシップに参加した学生からは、ブランドイメージの失墜を嘆く声が漏れています。誰もが憧れる一流企業のクリーンな印象が、データの不適切な扱いによって大きく揺らいでいるのが現状といえます。
また、ホンダの子会社などが指導を受けたことに対し、現場の社員と直接触れ合ってきた学生たちは複雑な心境を抱いています。「あんなに温かい雰囲気の会社だったのに」という好印象と、裏側で行われていたデータ取引という冷徹なビジネスのギャップに、働く意義そのものを見失いかねないほどの衝撃が走っているのです。
ここで注目すべきは「内定辞退率」という言葉の意味です。これは、学生が過去に閲覧した求人情報やサイト上の行動履歴をAI(人工知能)が分析し、その企業の内定を断る確率を算出するものを指します。学生にとっては、自分の意志とは無関係に「入社意欲が低い」とレッテルを貼られ、選考で不利に扱われるリスクを孕んでいました。
一方で、大学側の対応は慎重です。中央大学や立教大学などは、リクナビそのものの紹介を中止するといった厳しい措置を講じていますが、行政指導を受けた個別の企業を推薦枠や説明会から排除する動きは見られません。これは、企業選びを制限することが、かえって学生自身の就職チャンスを奪い不利益を招くという懸念があるからです。
デジタル時代の信頼関係と企業に求められる誠実さ
ある調査によれば、たとえ信頼しているブランドであっても、自分のオンライン上での行動履歴を参照されることには約7割の人が拒絶反応を示しています。これは就職活動に限った話ではありませんが、特に人生を左右する就活において、不透明な形で行われるデータ活用は学生の心を深く傷つける行為であると私は強く感じます。
今の学生たちは、決して利便性を否定しているわけではありません。利便性と引き換えに情報を差し出すことはあっても、それが「何のために」「どう使われるのか」という納得感が欠如していることに不安を感じているのです。企業はデータの活用によって学生にどんなメリットがあるのかを、もっと丁寧に言葉で尽くすべきでしょう。
情報が価値を持つ現代だからこそ、企業には法的な遵守だけでなく、高い倫理性を持った振る舞いが求められています。一度失った信頼を回復するのは容易ではありませんが、今こそ学生一人ひとりをデータとしてではなく、一人の人間として誠実に向き合う姿勢を業界全体で再構築していく必要があるのではないでしょうか。
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