日本のビジネス界を牽引する経営者と労働組合のリーダーたちが一堂に会する「経団連労使フォーラム」が、2020年1月31日に開催されました。これからの労働環境や、私たちの給与に直結する「春闘(しゅんとう)」の方向性を占う重要な局面に、SNS上でも「非正規の待遇はどうなるのか」「これからは一律の賃上げではなくなるのか」といった、将来の働き方に対する不安と期待が入り混じった声が多数寄せられ、大きな注目を集めています。
今回のフォーラムでは、主要な産業別労働組合のトップ3名が登壇し、それぞれの業界が直面している課題と、これからの時代を生き抜くための具体的な人材戦略を熱く語りました。
非正規の格差是正へ!正社員の賃下げによる帳尻合わせは拒否
まずマイクを握ったのは、流通やサービス、食品など多種多様な業種を抱える巨大組織「UAゼンセン」の松浦昭彦会長です。組合員の半数以上が短時間勤務などの非正規雇用であるという組織の特性を踏まえ、松浦氏は定期昇給分に加えて2%を基準とする明確な賃上げを求める姿勢を打ち出しました。パートタイム労働者に対しても、年間2カ月分以上のボーナス(一時金)を支給するという一歩踏み込んだ要求基準を掲げ、生活の底上げを強力に後押ししていく構えです。
さらに、同じ仕事内容であれば雇用形態に関わらず同等の賃金を支払うべきだという「同一労働同一賃金」の原則への対応についても言及しました。ここで松浦氏が強調したのは、格差をなくすために正社員の給与を引き下げて非正規の待遇に合わせるような、安易な帳尻合わせは決して認めないという断固たる決意です。働くすべての人の生活向上を目指すこの姿勢には、SNSでも「これこそが本当の格差是正だ」と称賛する書き込みが目立っています。
加えて、自然災害時の店舗営業と従業員の安全確保のバランスを考える「BCP(事業継続計画)」の策定や、世界中で猛威を振るい始めている新型肺炎への対応といった時事問題にも触れ、顧客のニーズに応えつつも現場で働く人々の安全を最優先で守るルール作りが急務であると訴えました。
100年に一度の変革期!自動車業界が挑む「絶対額」の賃上げ
続いて登壇したのは、日本の基幹産業を支える「自動車総連」の高倉明会長です。現在、自動車産業は100年に一度とも言われる巨大な大転換期を迎えています。インターネットと常時接続する車(Connected)、自動運転(Autonomous)、シェアリング(Shared)、電動化(Electric)の頭文字をとった「CASE(ケース)」や、あらゆる移動手段を一つのITサービスとして統合する「MaaS(マース)」といった最新テクノロジーの波が押し寄せ、産業の構造そのものが根底から塗り替えられようとしています。
このような激動の時代において、高倉氏はこれまでの賃上げ交渉のあり方に一石を投じました。物価は上昇しているものの、物価の変動を反映した実際の購買力を示す「実質賃金」が2019年からマイナス傾向にある現状を問題視しつつも、単に「前年からいくら給与が上がったか」という上げ幅の数字だけに執着すべきではないと指摘します。
上げ幅ばかりを気にしていると、大企業の基準にただ追従するだけの構造から抜け出せず、中小企業との格差が埋まらないからです。そのため、本年は目指すべき最終的な給与水準である「絶対額」を重視する方針を掲げ、自動車総連として一律の上げ幅の数値は提示しないという先進的なアプローチを選択しました。企業ごとの最低賃金協定の締結を強化し、働く人の足元をしっかりと固めていく方針に、業界内からも大きな期待が寄せられています。
人手不足を打ち破る!基幹労連が目指す「65歳定年制」の導入
最後に演壇に立ったのは、鉄鋼や造船、建設などを統括する「基幹労連」の神田健一中央執行委員長です。米中貿易摩擦の影響を受ける鉄鋼や受注に苦しむ造船など、業界ごとに景気の明暗が分かれる中で、特に建設分野を中心に深刻な問題となっているのが「人手不足」です。神田氏は、働く環境の向上と企業の競争力強化は決して反するものではなく、むしろ良い連鎖を生み出す関係にあるとし、「つなげ好循環!」という力強いテーマを掲げました。
まだ定期昇給の仕組みが整っていない企業に対して適切な指導を行うとともに、神田氏が特に力を込めたのが「65歳現役社会の実現」です。これは単に公的年金の受給開始年齢が引き上げられることへの消極的な穴埋めではありません。熟練の職人たちが持つ素晴らしい技能や、長年培われた高い技術力を次世代へと確実に引き継いでいくための、前向きな戦略なのです。
基幹労連では、いよいよ2021年度から「65歳定年制度」の具体的な導入をめざして動き出すことを表明しました。この決定に対してネット上では、「技術の伝承は日本の製造業の命命。高齢になっても現役で輝ける場所があるのは素晴らしいことだ」という共感の声が多く上がっています。
編集部EYE:個々の価値を高める人材戦略こそが日本を救う
今回の経団連労使フォーラムを傍聴して強く感じたのは、これからの日本は「一律の横並び」から脱却し、個々の企業や働く人々の特性に合わせたきめ細やかな戦略へシフトせざるを得ないということです。少子高齢化によって働く世代の人口が急速に減少していく中、非正規労働者の待遇改善やシニア層の活躍推進は、単なる福祉ではなく、企業が生き残るための死活問題であると言えます。
特に、正社員の給与を下げる形での格差是正を明確に拒否したUAゼンセンの姿勢や、上げ幅ではなく目指す給与の絶対額を重視する自動車総連の新しい試みは、これまでの日本の労働慣行に新しい風を吹き込む素晴らしい決断であると考えます。働く環境の魅力が高まってこそ、優秀な人材が集まり、企業の競争力も向上するはずです。この春闘が、すべての労働者にとって真の好循環を生み出す契機となることを切に願っています。
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