巨大な船体を形作る造船において、最大の課題とも言えるのが「溶接」にかかる膨大な時間とコストです。2020年2月6日、愛媛県今治市に拠点を置く溶接材料メーカー・四国溶材が、愛媛大学船舶海洋工学センターとの共同研究開始を発表しました。彼らが目指すのは、なんと造船の溶接回数を最大で半分にまで減らすという革新的な技術の開発です。これは単なる効率化を超え、海外勢との激しいコスト競争や深刻な人手不足に苦しむ日本の造船業界にとって、まさに待望の光明となるでしょう。
そもそも、船舶の建造には想像を絶する手間がかかります。例えば大型タンカー一隻を造るために必要な溶接距離は、実に約600キロメートルにも達し、建造工程全体の作業時間の約7割を溶接が占めていると言われています。特に船体に使われる10から20ミリメートルもの厚みを持つ鋼材を接合する際、これまでは何度も繰り返し溶接を行う必要がありました。厚さ10ミリメートルなら2回から3回、20ミリメートルであれば約5回もの工程が不可欠だったのです。
秘策は材料の進化と「ノウハウ」の提供
今回の共同研究では、溶接材料である「金属ワイヤ」に特殊な金属を配合し、さらに電流や電圧のバランスを緻密に調整することで、一度の作業で溶かし込める量を劇的に増やします。これにより、厚さ10ミリメートルの鋼材なら1回、20ミリメートルでも2回程度という圧倒的な工数削減を実現する計画です。溶接回数が減れば、鋼材が熱によって変形してしまうリスクも抑えられるため、品質面でのメリットも見逃せません。
特筆すべきは、この新技術を導入するためのハードルが非常に低いという点です。四国溶材は、新しい材料と溶接ノウハウをパッケージとして販売する方針を固めており、既存の自動溶接機をそのまま活用できます。これなら大がかりな設備投資が難しい中小の造船所でも導入しやすく、業界全体へ広く恩恵が広がることが期待されます。まさに「現場に寄り添う技術開発」の鏡と言えるのではないでしょうか。
大学と企業の連携がもたらす未来
SNS上の造船関係者や技術者コミュニティからも、今回の発表には「まさに今の造船業に不可欠な技術」「日本の製造現場の強みを見せつけてほしい」といった熱いエールが寄せられています。2018年6月に設立された愛媛大学船舶海洋工学センターにとっても、本案件は初となる共同研究です。四国溶材が持つ現場ニーズをくみ取る力と、大学が保有する高度な基礎データや検査機器が融合することで、独力では成し得なかったイノベーションが加速しています。
現在、2022年春ごろの製品化を目指して両者は邁進しています。まずは造船向けからのスタートですが、この技術が確立されれば、将来的には橋梁や建築物など、陸上の巨大構造物への展開も夢ではありません。創業1947年、四国唯一の溶接材料メーカーである四国溶材のこの挑戦は、技術の力で産業の構造を変えようとする、非常に野心的で価値ある取り組みだと私は考えます。日本のものづくりの底力に、これからも注目し続けたいですね。
コメント