映画界の最高峰とされるアカデミー賞の舞台で、動画配信大手のネットフリックスが予想外の苦戦を強いられました。2020年2月9日にハリウッドで開催された第92回アカデミー賞授賞式において、同社はなんと24件ものノミネートを誇りながらも、最終的な獲得は長編ドキュメンタリーなどわずか2部門にとどまったのです。前回の受賞数から半減するという厳しい結果に、業界内では驚きの声が広がっています。
今回のオスカー戦線で同社が最大の勝負手として送り出したのが、巨額の製作費を投じた『アイリッシュマン』でした。その予算はなんと1億5900万ドル、日本円にして約175億円という破格の規模です。本作は第2次世界大戦後のアメリカ裏社会を舞台に、激動の時代を生きた人々の栄枯盛衰を描いた3時間29分に及ぶ壮大な大作映画として仕上げられました。
メガホンを取ったのは、映画界の生ける伝説である巨匠マーティン・スコセッシ監督です。さらにロバート・デ・ニーロ氏やアル・パチーノ氏といった名優たちが顔を揃え、作品賞や監督賞など9部門で10件のノミネートを獲得していました。誰もが受賞を確実視していましたが、蓋を開けてみるとオスカー像を1つも手にできないという、まさかの「無冠」で幕を閉じる結果となったのです。
この衝撃的な結末に対し、SNS上では世界中の映画ファンから大きな反響が巻き起こっています。ツイッターなどのネット上では「これほどの名作が主要賞を逃すなんて信じられない」「配信映画に対するハリウッドの保守的な壁はまだ厚いのではないか」といった、落胆や疑問のポストが溢れました。一方で「ライバルが強すぎた」と、他作品の健闘を称える声も多く見られます。
今大会の主役の座を射止めたのは、作品賞を含む4部門を制覇した韓国映画『パラサイト 半地下の家族』でした。さらに、米ユニバーサル・ピクチャーズの『1917 命をかけた伝令』なども圧倒的な存在感を放ちました。アカデミー賞は、俳優や監督ら映画関係者で構成される会員の投票によって決定されるため、こうした強力な競合作品に票が分散したことが無冠の主な要因と分析されています。
また、スコセッシ監督が近年人気のマーベル映画を公然と批判したことが会員の反感を買ったという見方もあります。しかし皮肉なことに、映画界全体のレベルを引き上げたのはネットフリックス自身かもしれません。例えば『パラサイト』のポン・ジュノ監督は、過去に同社の資金で『オクジャ/okja』を制作し、世界へ羽ばたく足がかりを得ていたのです。
さらに『1917』が評価された最大の理由は、映画館の大スクリーンで鑑賞する価値を証明した壮大なカメラワークにありました。これはスマートフォンの画面など、手軽な視聴スタイルを提供する動画配信サービス、すなわちストリーミングを意識した映画界側の強力な対抗策とも言えるでしょう。技術の進化と伝統的な映画文化のプライドが激突した瞬間です。
私は、今回の結果がネットフリックスの敗北を意味するとは思いません。これほどの巨額投資を行い、既存の映画配給システムに揺さぶりをかけ続ける姿勢は、映像産業全体の活性化に大きく貢献しているからです。映画館での体験を重視するアカデミー賞の壁は依然として厚いですが、次回こそ動画配信サービス発の作品が歴史的な悲願を達成するのではないかと、期待が高まります。
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