2019年7月2日に日本銀行が公表した6月の全国企業短期経済観測調査(日銀短観)の結果は、日本経済の二面性を鮮明に映し出すものとなりました。海外経済の減速懸念という逆風にさらされる製造業と、国内の堅調な需要に支えられるサービス業などの非製造業とで、景況感が「明暗」を分けたのです。この調査からは、企業の雇用や所得改善を背景とした内需、つまり国内の需要こそが、現在の日本経済の生命線であり、その持続力が今後の景気の行方を大きく左右する構図が浮かび上がっています。
企業の心理状態を示す業況判断指数(DI)を分析すると、製造業と非製造業の景況感の差は、長期的な視点で見ても明らかになっています。DIとは、景気が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を差し引いた数値で、この値が大きいほど、企業マインドが上向いていることを示します。今回、生産用機械や自動車といった製造業のDIは、1年前と比較してプラス幅が大幅に縮小し、特に電機業界では10分の1にまで落ち込む深刻な状況です。これは、激化する米中摩擦(アメリカ合衆国と中華人民共和国間の貿易や経済を巡る対立)の影響が、輸出企業に重くのしかかっていることを如実に物語っています。
一方で、建設、不動産、運輸・郵便といった非製造業のDIは1年前とほぼ同水準を維持しており、小売りや宿泊・飲食サービス業に至っては、むしろ改善が見られました。かつての日本経済であれば、製造業の不調は景気全体の下り坂を意味しましたが、足元では政府も日銀も「景気は緩やかに回復(拡大)している」との基調判断を崩していません。この判断の根拠となっているのが、まさに国内需要の**「粘り腰」です。
実際にデータで見ても、内需の強さが確認できます。日銀が算出する価格変動の影響を除いた実質輸出**(輸出額を物価変動の影響を取り除いた実質値で示したもの)は、2008年のリーマン・ショック前の水準から大きく伸びていませんが、スーパーなどの販売統計に基づく実質消費活動指数は、2014年4月の消費増税直前の駆け込み需要の反動を除けば、遡れる2003年以降で最高水準に達しているのです。さらに、実質国内総生産(GDP)ベースで見た企業の設備投資額も、2019年1月~3月期には1994年以降の最高額を更新しました。
今回の短観においても、全ての規模、全ての産業の2019年度の設備投資計画は、前年度比で2.3%の増加が見込まれており、3月短観での2.8%減というマイナス予測からプラスに転じる結果となりました。こうした力強い内需と設備投資の背景には、国内の労働需給の引き締まりがあります。労働力不足が企業に省力化のための投資を促すとともに、緩やかな賃金上昇が消費拡大を下支えする好循環が生まれていると見るべきでしょう。
しかし、内需がこの力強さを保ち続けるためには、いくつかのハードルが存在します。最大の懸念は、2019年10月に予定されている消費増税です。富士通総研の早川英男エグゼクティブ・フェローは、「現在、新車や家電の販売が好調なのは、増税前の駆け込み消費が一定程度発生していると考えるべき」だと指摘しており、増税後に景況感が急激に悪化するリスクを警告しています。
また、足元の設備投資の強さには、2020年の東京五輪を見据えた都心の再開発を含む建設特需も一因として挙げられます。この特需が一巡した後も、設備投資が高水準で維持されるのかという点についても、予断を許さない状況だと言えるでしょう。私見ではありますが、今の日本経済は、世界経済の不安定さという「外圧」を、国内の力強い消費と投資でなんとか耐え忍んでいる**「内需頼み」**の状況にあると判断しています。消費増税後の反動をいかに抑え込み、国内の好循環を継続できるかが、今後の政権と日銀にとって最も重要な課題となるでしょう。
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