ベルギーから上陸したカジュアルウォッチブランド「アイスウォッチ」の勢いが、2019年現在、止まる所を知りません。日本市場への参入から10年という節目を迎え、年間売上本数は当時の5倍にあたる10万本という驚異的な数字を叩き出しています。SNSでも「カラーバリエーションが豊富で推し活に最適」「シリコン素材が肌に馴染んで使いやすい」といった絶賛の声が相次いでおり、若年層を中心に絶大な支持を集めています。
人気の最大の秘訣は、1万円から2万円台という非常にリーズナブルな価格設定と、圧倒的な商品ラインナップの豊富さに集約されるでしょう。アイスウォッチは、ケースとシリコン製ベルトが継ぎ目なく一体化したミニマルなデザインを特徴としています。この「一体成型」と呼ばれる技術により、軽量かつ防水性に優れた実用的な時計が誕生しました。2009年の日本進出以来、その手軽さとファッション性が日本の消費者の心を掴んで離しません。
驚くべきことに、2019年7月時点での商品展開数は約350種類にも及んでいます。一般的な時計ブランドが半年に一度新作を発表するのに対し、同ブランドは毎月新しいモデルを投入するという驚異的なスピード感を誇ります。1シーズンで50点近い新作が登場するため、消費者はまるで洋服を選ぶような感覚で、その日の気分やコーディネートに合わせて時計を付け替えることができるのです。この「着せ替え感覚」こそが、現代のニーズに合致しています。
原宿旗艦店の移転開業とライフスタイルへの浸透
販売を牽引するアパレル卸のビヨンクールによれば、特に女性ユーザーからはブレスレットのようなアクセサリー感覚で親しまれているようです。汗をかいても丸洗いできるシリコン素材は、仕事以外のレジャーやスポーツシーンでも重宝されています。2019年7月には東京・原宿の旗艦店「アイスウォッチトウキョウ」が移転リニューアルオープンを果たし、限定モデルやフィギュアの展開など、ブランドの世界観をより深く体験できる空間が誕生しました。
こうした急成長の背景には、国内の時計市場における「空白地帯」の存在が指摘されています。日本時計協会のデータを見ると、2018年の国内時計出荷数は前年比で減少傾向にあり、大手メーカーは生き残りをかけて高単価な高級モデルへのシフトを強めています。その結果、かつて日本メーカーが得意としていた低価格帯の市場が手薄となり、そこにデザイン性と品質を兼ね備えたアイスウォッチが鮮やかに収まった形と言えるでしょう。
しかし、好調なアイスウォッチを追撃する新興勢力も続々と登場しています。2019年7月に日本初上陸を果たした英国ブランド「サラミラーロンドン」は、鳥や民族衣装をモチーフにした華やかなデザインで、早くも目標の2倍の売上を記録しました。また、ミニマリズムの極致とも言える「ダニエルウェリントン」も根強い人気を保っています。安価で正確な時計を武器に、海外勢が日本のファッションウォッチ市場を塗り替えようとしています。
筆者の見解としては、時計はもはや「時間を確認する道具」から「自己表現のツール」へと完全に変貌を遂げたと感じています。スマートフォンの普及により正確な時刻を知る手段は他にありますが、自分の個性を色や形で表現したいという欲求はむしろ高まっています。アイスウォッチが提供しているのは、時計そのものではなく「選ぶ楽しさ」なのでしょう。こうした情緒的な価値を提供できるブランドが、今後の市場を制していくはずです。
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