金融業界における競争が激化するなか、大和証券グループ本社が不動産ビジネスの領域を大幅に拡大しています。その具体的な動きとして、2020年度にも、宿泊特化型ホテルを主要な投資対象とする不動産投資信託(REIT)を新たに設立し、1,000億円規模の資金調達を目指す計画が明らかになりました。また、これと並行して、海外の不動産に特化したファンドの組成も進められています。証券大手としての確固たる営業基盤と高い信用力を活かし、低金利環境下で高利回りを求める機関投資家の運用ニーズを取り込む狙いが鮮明に見えます。
この大和証券の積極的な姿勢は、保険会社までもが不動産分野の開拓に注力し始めている現状において、金融業態の垣根を超えた熾烈な競争を一層加速させるものと予想されます。この動きに対し、SNS上では「本業(証券)の不振を補うための多角化としては理解できるが、不動産市況の過熱感が気がかり」「機関投資家にとって魅力的な利回りの海外案件を組成できるのは強み」といった、期待と懸念が交錯する反響が寄せられています。
ホテルREITの新設にあたっては、関西を地盤とするデベロッパーのサムティと手を組み、共同事業として展開されます。サムティが関西圏を中心に宿泊に特化したホテルの開発を進め、大和証券グループがその開発資金の一部を負担する体制です。完成したホテルは順次この新たなREITに売却され、その売却によって得られた資金が、次のホテル開発に再投資される好循環を生み出すことが期待されています。この開発計画はすでに2022年開業予定分まで確保されており、総額で1,000億円規模となる見通しです。
大和証券グループは、すでに傘下に東京23区の物件を中心とする「大和証券ホテル・プライベート投資法人」を擁していますが、新設するREITでは投資地域を分けることで、共食いを避け、効率的な物件取得を目指します。また、この新設REITは、将来的に上場することも視野に入れているとのことで、投資家にとっての流動性(換金のしやすさ)向上も期待できるでしょう。
海外不動産への分散投資で機関投資家の需要に応える
同時に、大和証券は海外の不動産への投資を目的としたファンド組成にも乗り出しています。これは、2019年度中にも国内の年金基金や地方銀行3~4社から資金を集め、米国のオフィスビルと賃貸マンションをそれぞれ1棟ずつ取得する計画です。米国の不動産ファンドの平均利回りは一般に4~5パーセントとされており、これは国内の上場REIT(不動産投資信託:投資家から集めた資金で不動産を購入し、その賃貸収入や売買益を配当する金融商品)の平均利回りである4パーセント弱と比較して高い水準にあります。収益性の高さを重視する機関投資家の分散投資のニーズに応える、魅力的な商品となるでしょう。
大和証券が不動産ファンド事業に本格的に参入したのは2009年、いわゆるリーマン・ショックで経営危機に陥ったダヴィンチ・ホールディングスから運用会社を買収し、上場REITを引き継いだのが始まりです。その後、賃貸マンションや高齢者向け住宅、さらには物流施設への投資へと裾野を広げ、グループ合計の運用資産残高は2019年3月末には9,000億円に到達。今期中にも1兆円の大台を突破する勢いを見せています。
多角化は必然か?高まる不動産市場の過熱感への警戒
大和証券がこれほどまでに不動産ビジネスへと傾注するのは、従来の証券ビジネスが不調に喘いでいるためです。2019年3月期の連結純利益は、前期比で42パーセント減の638億円という結果で、過去5年間のピーク時の4割程度の水準にとどまっています。証券事業は株式市場の変動に大きく影響を受けやすい特性がありますが、不動産事業を多角化の柱に据えることで、収益の安定化を図ろうとしているのが見て取れます。実際、不動産事業は今やグループ利益の約1割を占めるまでに成長しています。
しかし、不動産市場には過熱感が漂っているのも事実です。日本における低金利の常態化により、借入費用を差し引いても利回りが相対的に高く、世界中の投資マネーが流れ込んでいる状況です。特に東京のオフィスビルの価格は2008年以来の高値圏にあり、高値で物件を取得すれば、その分だけ将来の損失リスクを抱えることになりかねません。リーマン・ショック後に不動産価格が急落し、多額の損失を被った証券会社が多かったことを考えると、この点は強く懸念されます。
さらに、ホテル開発に対するリスクも無視できません。不動産サービス大手のCBRE(東京・千代田)の分析によると、全国の主要9都市では、今後3年間で新規開業する客室数が24パーセントも増加する見込みで、2021年にはこれら9都市すべてで宿泊施設の需給が緩む恐れがあるとのことです。空室率を抑え、安定した収益を確保するためには、魅力的な施設設計やサービスの提供が不可欠となるでしょう。
この分野では、第一生命ホールディングスや日本生命保険といった競合他社も、機関投資家を対象とした私募REIT(非上場のREIT)を販売し、手数料収入を得るビジネスを模索するなど、激しい競争が繰り広げられています。あるライバル証券の幹部は、大和証券の不動産ビジネス戦略に対して「不動産市況が崩壊すれば、たちまち損失が噴き出しかねない」と警戒感を示しています。とはいえ、証券ビジネスへの依存度が高い野村ホールディングスが前期に1,000億円超の最終赤字を計上している現状と比較すると、大和証券の立ち位置は相対的に優位にあると言えるでしょう。今後の成長戦略は、いかに不動産リスクを適切にコントロールできるかにかかっていると断言できるのではないでしょうか。
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