2017年に世間を大きく揺るがした神戸製鋼所の品質データ改ざん問題は、日本のものづくりへの信頼を揺るがす深刻な事態となりました。あれから時間が経過し、再発防止策や企業風土の改革に奔走する同社ですが、ネット上やSNSでは「本当に変われるのか」「何度も同じことを繰り返している」といった厳しい声がいまだに絶えません。2018年4月に社長へと就任し、間もなく2年を迎えようとしている山口貢社長に、現場のリアルな変革とこれからの戦略についてじっくりとお話を伺いました。
社長就任からの1年目は目の前の対策をこなすだけで精一杯だったと振り返る山口社長ですが、2年目が過ぎようとする現在は、ガバナンスや組織面の改革において一定の成果を実感しているようです。取締役会議長に社外の人材を登用したほか、鉄鋼事業とアルミ事業の組織統合を決定するなど、形としての対策は進んでいます。SNSでは「組織の形を変えるだけで中身が伴うのか」という厳しい突っ込みも見られますが、経営陣の危機感は確実に現場へと発信されている模様です。
風化との戦い!地道な対話が変える現場の意識
山口社長が最も課題視しているのは、仕組みというハード面ではなく、社員の意識というソフト面の改革です。過去に何度も不祥事を起こしながら、その反省が継続されずにガバナンス(企業統治、つまり企業が不正を行わないよう監視・コントロールする仕組みのこと)が置き去りになっていた同社だからこそ、今回の再発防止策が風化することへ強い危機感を抱いています。専用の展示施設を設立したり、社長自らが現場との対話を繰り返したりする地道な活動を、現在も泥臭く続けているのです。
今回の不正によって従業員自身も大きなショックを受けており、「このままではいけない、変わらなければ」という自発的な意識は以前よりも確実に高まっているといいます。改革とは上層部から強制されるものではなく、本来やるべきだったことを自主的に根づかせるプロセスです。かつての神鋼に足りなかった「一度決めた反省を継続する力」をいかに現場へ浸透させられるか、これこそが同社が未来へ進むための最大の分岐点になるのではないでしょうか。
常に求められる「選択と集中」と新たな経営指標
一部からは、複合的な事業運営そのものに限界があるのではないかという指摘も上がっています。これに対して山口社長は、特定の期間だけでなく、経営資源の配分や事業の入れ替えを行う「選択と集中」は常に必要であるという持論を展開します。実際に、外部の資本を入れた方が成長できると判断した銅管や鋼管の事業売却をすでに決断しており、歴史的に見ても素材、機械、電力という3つのコア事業でいかに顧客へ価値を提供できるかを重視しています。
さらに、中期経営計画では新たな事業管理指標として「ROIC(投下資本利益率)」の導入を決定しました。これは、事業のために投じた資金(自己資本と借入金)に対して、どれだけ効率的に利益を稼ぎ出したかを図る指標です。神鋼のような複数の事業を持つ複合企業にとって、資本コストを意識した経営は不可欠でしょう。しかし、過去に作った撤退基準が機能しなかった苦い経験から、山口社長は指標の独り歩きを警戒し、総合的な判断のツールとして活用する構えです。
中国経済の減速と品質不正が響く苦しい収益環境
足元の業績に目を向けると、米中貿易摩擦の長期化に伴う中国の景気減速が影を落としており、半導体や機械関連を中心に需要が伸び悩んでいます。さらに、品質不正の悪影響も色濃く残っています。アルミ事業では2020年3月期の下期に黒字化を見込んでいたものの、不正防止のための整然としたものづくりを垂直立ち上げ(生産を短期間で急激に立ち上げること)するまでに予想以上の手間と時間がかかり、収益を圧迫しているのが現状です。
また、主力の鉄鋼事業でも加古川製鉄所での生産トラブルが重なるなど、不運と課題が続いています。自動車の軽量化ニーズに応える戦略的投資は進めているものの、外部環境の逆風と社内の立て直しが重なり、収益面では苦しい戦いを強いられている印象を拭えません。SNSでも「業績回復にはまだ時間がかかりそう」「信頼回復のコストは重い」といった現実的な分析が多く、市場の目は依然としてシビアであることがうかがえます。
2020年4月の組織統合で狙う素材事業のシナジー
数々の課題を抱える神戸製鋼所ですが、反転攻勢の鍵となるのが2020年4月に控える鉄鋼とアルミの組織統合です。これまでは縦割りだった素材系の組織を融合させることで、鉄鋼部門で先行している生産改革の成功事例をアルミ部門へ横展開しやすくなります。自動車の軽量化という世界的な大テーマに対して、鉄とアルミの両面からアプローチし、社内で課題を共有できるメリットは非常に大きいと言えるでしょう。
一部で噂される社名変更や持ち株会社制への移行については、山口社長は「まずは個々の技術を組み合わせてソリューション(課題解決策)を提供する段階」として否定的な見解を示しました。過去の不正の歴史を見れば、世間の風当たりが強いのは当然です。しかし、経営トップが現場に足を運び、本気で風化を食い止めようとしている姿勢には期待したいところです。組織統合という大きな種が、真の信頼回復と成長という実を結ぶのか、これからの同社の歩みに注目が集まります。
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