日本の自動車産業を牽引するトヨタ自動車が、大きな転換期を迎えています。2020年、同社は自動車業界の未来を握る「CASE」の実用化に向けて本格的に舵を切りました。このCASEとは、つながる車を意味する「コネクテッド」、自動運転、シェアリング、そして電動化の4つの頭文字を取った専門用語です。これらは次世代の乗り物を形作る最重要技術であり、現在の自動車市場における最大のトレンドとなっています。トヨタはこれまで蓄積してきた電気自動車や自動運転の技術を、いよいよ市場へ次々と投入する予定です。
2020年に開催される東京五輪・パラリンピックの選手村では、自動運転機能を備えた電気自動車「イーパレット」が24時間体制で巡回バスとして走行します。さらに高級車ブランドのレクサスからも、高速道路で自動的に車線変更や追い越しを行える最先端モデルが発売される予定です。SNSでも「ついに未来の車が現実になる」「オリンピックでの自動運転が楽しみ」といった期待の声が数多く上がっており、新技術への関心の高さがうかがえます。しかし、これほど華やかな先進技術の裏側には、巨額の開発費や部品コストという大きな壁が立ちはだかっています。
トヨタは2020年3月期の連結純利益において、前の期と比べて14パーセントの増加を見込んでおり、業績自体は非常に堅調です。それにもかかわらず、最先端技術であるCASEの各分野をどのように利益に結びつけるかという具体的な道筋は、まだ明確には見えていません。特に電気自動車に関しては、従来のガソリン車に比べて車載電池や、電流を調整するインバーター、モーターなどの基幹部品にかかる費用が格段に高く、1台あたりのコストが約76万円も跳ね上がってしまうという試算もあります。
同社は2025年までに、ハイブリッド車を含む電動車の年間販売台数を550万台以上に引き上げる野心的な計画を掲げています。そのうち50万台を電気自動車にする方針ですが、現在のコストのままでは4000億円規模の負担増につながりかねません。量産によるコスト削減が期待される一方で、世界的な需要拡大により電池材料の価格が高騰しているのも頭の痛い問題です。すでにソフトウェア技術者の採用強化などによって固定費は過去5年間で1兆円以上も増加しており、利益を圧迫する要因となっています。
中国市場を見据えた限界突破のコスト削減とグループ再編
この難局を乗り越えるため、トヨタは得意の生産管理や原価改善の能力をさらに研ぎ澄ましています。2019年から系列の部品メーカーが注目している「CCCR」と呼ばれる新たな取り組みがその象徴です。これは中国市場での人気車種「カローラ」のマイナーチェンジに向け、部品コストを現地の中国メーカーと同等にまで引き下げようという過酷な挑戦です。現地の競合メーカーが品質と価格競争力を急速に高めている今、これまでの過剰な品質を見直し、まったく新しい発想でクルマづくりを変えなければ生き残れないという強い危機感があります。
さらに、グループ企業の力を結集させるための組織再編も急ピッチで進められています。2020年4月には、トヨタの広瀬工場を主要部品メーカーのデンソーへ移管し、電動車の心臓部であるインバーターの開発や生産を一箇所に集約して効率化を図る予定です。また、トランスミッションを手掛けるアイシン精機とアイシン・エィ・ダブリュも2021年春の経営統合を控えています。こうした部品の共通化や開発の効率化は、変化の激しい時代を生き抜くために不可欠な戦略といえるでしょう。
他社とのアライアンスも強化しており、2019年にはスズキやスバルへの出資比率を引き上げる発表を行いました。これら連携するメーカーの年間販売台数を合わせると1600万台規模に達します。膨大な資金力を持つトヨタだからこそ、こうした「仲間づくり」を進めながら次世代技術の重い開発負担を分散できるのです。投資家の間でも、これほどの巨額投資を行えるプレーヤーは世界でも限られていると高く評価されており、2019年のトヨタの株価は欧米のライバル企業を上回る約2割の上昇を記録しました。
しかし、株価の割安感を示す指標であるPER(株価収益率)を見ると約10倍に留まっており、日経平均の平均値を下回り続けています。これは世界的な新車販売の落ち込みや、業界全体の構造変化に対する市場の警戒感が根強い証拠です。それでも、私はこのトヨタの挑戦を日本の製造業の未来を決める大勝負だと捉えています。前例のない大規模なグループ再編や他社との連携、そして聖域なき原価低減に挑むトヨタの変革の行方に、今後も目が離せません。
コメント