環太平洋経済連携協定(TPP)や日欧経済連携協定(EPA)が幕を開けてから、およそ1年が経過しました。私たちの食卓を支える輸入食肉の市場では、今まさに地殻変動とも言える大波が押し寄せています。全体的な輸入量は拡大しているものの、これまで主役の座に君臨していたアメリカ産やオーストラリア産のシェアが急激に落ち込んでいるのです。SNSでも「最近お店でカナダ産の肉をよく見かける」「安くて美味しいのは協定のおかげだったのか」といった声が続々と上がっており、消費者の関心の高さがうかがえます。
日本の牛肉市場で約半分を占めていた絶対王者のオーストラリア産ですが、2019年はかつての勢いが見られません。貿易統計によると、2019年の牛肉輸入量そのものは61万5390トンと前年同期比で1.3%微増したものの、オーストラリア産は29万3501トンと5.8%も落ち込みました。この背景には、中国での食文化の洋風化や所得向上、さらにはアフリカ豚熱(ASF)という家畜の感染症による豚肉不足を補うための牛肉爆買いがあります。現地での需要爆発により価格が急騰し、日本は買い負けている状況なのです。
アメリカの一人負け!?主役へと躍り出たカナダ産の魅力
さらに深刻なのがアメリカ産です。トランプ政権によるTPP離脱が完全に裏目に出てしまい、関税引き下げの恩恵を受けられませんでした。その隙に大躍進を遂げたのがカナダ産です。カナダ産の牛肉輸入量は4万2900トンと、なんと前年比で約2倍という驚異的な伸びを記録しました。大麦などの穀物を食べて育つ穀物肥育(コクモツヒイク)のカナダ産は、ジューシーで赤身と脂質のバランスが良く、アメリカ産の代替として白羽の矢が立ちました。関税の差による割安感から、大手ステーキチェーンでも定番化されています。
この激変の波は、豚肉市場にも同じように押し寄せています。2019年の豚肉輸入量は95万8963トンと前年比で3.7%増加しました。これは世界的なアフリカ豚熱の流行による価格高騰を見据え、各メーカーが調達先を多角化したためです。日欧EPAによる関税引き下げを追い風に、スペイン産が20.8%増、カナダ産も4.6%増と数字を伸ばす中、アメリカ産だけが5.2%減と大苦戦を強いられています。商社関係者からも「米国の一人負け状態」との厳しい声が漏れるほどです。
2020年の食肉市場を占う不確定要素と今後の展望
2020年1月1日には日米貿易協定が発効され、アメリカ産もようやく関税引き下げのスタートラインに立ちました。巻き返しを狙うアメリカですが、市場の先行きは決して楽観視できません。米中貿易協議の進展により中国がアメリカからの調達を増やせば、再び価格が跳ね上がるリスクを孕んでいます。さらに、足元では新型コロナウイルスの感染拡大という新たな火種が浮上しており、世界最大の消費国である中国の動向はまったく予測がつきません。2020年は一歩読み間違えれば大損しかねない、激動の1年になるでしょう。
メディア編集部としては、この貿易協定の変革が私たち消費者に恩恵をもたらしている点を大いに歓迎します。これまで特定の国に依存しがちだった日本の食糧事情において、高品質なカナダ産や欧州産という選択肢が増えたことは、食の安全保障や家計の防衛という意味でも非常にポジティブな動きです。一方で、世界的な感染症や政治のパワーバランスによって、私たちの「今日のごちそう」の価格が左右される不確実な時代に突入したとも言えます。今後の流通ニュースからも目が離せません。
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