【ベルリン発】ドイツの政局が緊迫する中、連立政権のキーパーソンがその心境を明かしました。アンゲラ・メルケル首相率いる保守系のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と、中道左派の社会民主党(SPD)による「大連立」政権。この政権の第2党であるSPDの副党首であり、副首相と財務相の3つの要職を兼ねるオラフ・ショルツ氏が、2019年6月7日までに日本経済新聞の取材に応じ、政権運営に対する強い意志を表明されました。
ショルツ氏は、「連立政権は、この任期中は続けるということで発足した」と断言し、本来の任期満了である2021年まで大連立を維持する姿勢を滲ませました。これは、5月23日から26日にかけて行われた欧州議会選挙および地方選挙でのSPDの歴史的な惨敗を受け、党内で急速に高まっている「早期連立解消・下野論」を明確に抑え込む意図があるものと推察されます。政権を途中で投げ出すことは無責任である、というのが党の実力者である同氏の考え方なのでしょう。
しかし、ショルツ氏は党内の不満にも最大限の配慮を見せていらっしゃいます。連立維持派が多いとされる党執行部とはいえ、SPDの支持率が直近の世論調査で10%台前半にまで落ち込んでいる現状は深刻です。このため、連立政権の任期のちょうど折り返し地点にあたる今秋には、政権運営の是非を厳しく評価する**「中間評価」**が行われる予定です。ショルツ氏は、「年金改革などが仕掛かり中」と述べ、この中間評価の場を利用して、残された任期でSPDが掲げる政策の実現を保守陣営に強く迫る、という戦略を練っているものと思われます。
財政の守護神:ショルツ財務相の「黒字堅持」論
政治的な駆け引きの側面だけでなく、ショルツ氏は一国の財務相として、その経済政策の柱も鮮明に示されました。彼は在任中、財政黒字を維持し続ける考えを強調し、「連立政権は財政赤字にならないという義務を負っており、それを守る」と明言しています。これは、ドイツの経済的な健全性、すなわち財政の規律を重んじる姿勢の表れと言えるでしょう。
昨今の米中貿易摩擦の影響で欧州経済の減速が懸念されていますが、ショルツ氏はそうした見方を強く否定し、「伸びはやや鈍ったが成長は続いている」との認識を示しました。彼は、現時点で財政出動によって景気を下支えする必要があるという論調をけん制しており、まずは財政再建を進め、将来の景気失速に備えるべきだという現実主義的な見解を表明されました。もちろん、「仮に(景気が)失速すれば必要なあらゆる措置をとる」という柔軟な姿勢も示しており、将来的な景気対策への選択肢も保持されています。
また、国際社会から、貿易で稼いだ利益(経常黒字)をため込むドイツが、世界的な経済の不均衡是正に協力していないという批判があることに対しては、「減税などを講じている。公共投資も最高水準に引き上げた」と反論し、国内でできることは実行している、という立場を明確に打ち出されました。
欧州人事を巡る独自の見解:メルケル首相との温度差も
この取材では、現在ヤマ場を迎えている欧州連合(EU)の首脳人事を巡るショルツ氏の独自の見解も明らかになっています。次期欧州委員長人事を巡り、メルケル首相がドイツ出身で欧州議会最大会派である欧州人民党(中道右派)の筆頭候補であるウェーバー氏を推す一方で、ショルツ氏はご自身と同じ中道左派に属するティメルマンス氏(オランダ出身)こそが「次期欧州委員長にふさわしい」と述べ、首相との立場の違いを鮮明にされました。
さらに、次期欧州中央銀行(ECB)総裁については、「ワイトマン独連銀総裁もいい人材のひとり」と評価しています。ドイツ国内では、堅実な金融政策運営で知られるイェンス・ワイトマン氏がECB総裁に就任することへの期待が高まっており、ショルツ氏の発言はそうした国内の声を代弁するものと言えるでしょう。
編集者としての視点:大連立の鍵を握る「リアリスト」
今回、ショルツ氏が発せられたメッセージは、党内の突き上げと政権の安定という、二律背反の課題を抱えるSPDの現実主義者(リアリスト)としての苦悩と決意が凝縮されたものだと感じます。政治的基盤の立て直しを最優先し、早期の下野を望む党内世論に対し、「無責任な政権放棄はしない」という強い覚悟を示すことで、自らの主導権を確保しようとしているのでしょう。
SNSなどでの論調を見てみると、「ショルツ氏の発言は現実的」「ドイツ経済の安定を考えれば、2021年までの継続は当然だ」といった連立維持を支持する意見がある一方で、「惨敗したSPDが政権にしがみつくのは党再生を妨げる」「秋の中間評価でどれだけ政策を実現できるか見ものだ」といった厳しい声も散見されます。この秋の中間評価で、ショルツ氏が保守陣営からどれだけの成果を引き出せるのか、そして低迷するSPDの支持率を回復させられるのかが、大連立の真の命運を分ける分岐点になるでしょう。
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