2019年6月の株主総会シーズンを迎え、企業の経営陣を選ぶための情報開示に大きな変化が起きています。それは、取締役候補者がどのような資質や経験を持っているかを一目でわかるように一覧表にまとめた「スキルマトリックス」を、招集通知に掲載する企業が急増しているというニュースです。日本総合研究所の調査によれば、2019年の総会でこれを採用したのは、なんと20社に上り、前年の2018年の6社から、わずか1年で3倍以上も増加したことが明らかになりました。
この「スキルマトリックス」とは、取締役候補者一人ひとりの持つ能力や経験を、「経営」「財務」「法律」といった、企業経営に不可欠な専門分野の項目と照らし合わせ、分かりやすく図表で示す手法のことを指します。これを取り入れる最大の目的は、株主の方々に、選任された取締役会全体が持つ機能や、メンバー構成の多様性を深く理解してもらうためです。企業は、ガバナンス(企業統治)の透明性を高めることで、株主との信頼関係をより強固に築き上げようと努めているのでしょう。
日本総研が東京証券取引所の時価総額上位500社を対象に分析したところ、このスキルマトリックスの導入は、2016年のわずか1社から、この3年間で着実に増え続けています。特に2019年は、神戸製鋼所やエーザイなど、大手企業が新たに採用に踏み切ったことが注目されます。この背景には、金融庁と東証が策定した「企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)」があり、この指針が取締役会の構成に「多様性の確保」を求めていることが強く影響しています。これは、性別や国籍だけではなく、専門知識や経験の面でも、偏りなく取締役会を構成すべきという考え方を示している、非常に重要な規範なのです。
なかでも、神戸製鋼所は、過去に発生した品質不正問題を受けて、企業統治の改革の一環としてスキルマトリックスの導入を決断しました。同社は、一般的な経営能力だけでなく、「電力」や「素材」といった、その事業分野に特化した専門性も明記することで、候補者がそれぞれの分野において、いかに適任であるかを株主に強くアピールしています。このような具体的な情報の開示は、企業が自浄作用を発揮し、信頼回復に本気で取り組んでいる姿勢を示すものと評価できます。
このスキルマトリックスという手法は、実は2008年のリーマン・ショック以降、取締役会の実効性(実際にどれだけ機能しているか)への関心が世界的に高まったことを受けて、アメリカを中心に広がりを見せました。日本総研の調査によると、2018年時点ですでに、アメリカの代表的な株価指数であるS&P500に採用されている銘柄のうち、100社以上がこれを導入しているとされています。世界的な潮流が、今、日本の大企業にも本格的に押し寄せていると言えるでしょう。
SNS上では、この「取締役の見える化」に対して、「取締役会の構成が明確になって、評価しやすくなる」「専門知識が足りない人がいないかチェックできるのは良いことだ」「株主として総会での議決権行使の判断材料が増える」といった、肯定的な意見が多く見受けられます。企業のトップ層が、これまで以上に株主に対して自らの資質を明確に提示し、説明責任を果たす姿勢は、今後の日本企業のガバナンス向上に不可欠であると、私は強く感じています。このような情報開示の進化は、企業と株主の対話を促進し、より健全な経営体制の構築へとつながる未来を期待させてくれるに違いありません。
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